投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

おぼろげに輝く
【大人 恋愛小説】

おぼろげに輝くの最初へ おぼろげに輝く 22 おぼろげに輝く 24 おぼろげに輝くの最後へ

15-1

 平日は午後からしか面会ができない。午前中、百貨店に出向いた。
 革製品のお店に立ち寄ると、俺の顔を覚えていたらしく、店員さんが手を上げて迎えてくれた。俺は真っすぐ店員さんの元へ歩いた。
「急で悪いんですけど、このブレスレットって、すぐに作れます?」
 片方の眉を上げて、無言で頷く店員さんに「女物、ひとつ作ってください」とお願いした。
 俺はレジの横にあるミニサイズの革工房のカウンターに頬杖をつきながら、店員さんの手元を見ていた。途中から、革がどう結びついたのか分からなくなって「そこ、巻き戻し」と声を掛けたけれど「無理だよ」と笑われてしまった。俺の腕についているブレスレットより幾分色の淡い感じのブレスレットが完成した。
「誰かに贈り物?」
 俺は手渡されたブレスレットを一通り眺め、レジのトレイまで持って行った。
「この前の、ネットショップの子にあげようかと」
 ほほー、と感心したような顔で頷き、笑う。ベージュの箱に入れてくれようとしたので「包装はいいです」と断った。
「ネットショップの子に、この前の件、話した?」
 透明のビニールに、形が崩れないようにブレスレットを入れ、シールをぺたっと張りながら、店員は顔を上げ俺に言う。何と返答しようか、頭が働かない。
「あぁ、まだ。今ちょっと彼女、仕事ができる状態じゃなくて」
「そうか、ちょっと期待してるんだけどな」
 俺は苦笑するに止め、彼女が意識不明である事は話さないでおいた。ビジネスにおいて、情けは無意味だ。曽根ちゃんに待たされた末に、店員さんが「もうやめだ」と言えばそれまでだし、待ってくれても作品を気に入らないかも知れない。待てないと言った癖に曽根ちゃんの作品を見たら話を蒸し返すかも知れない。未知数だ。
 俺はブレスレットの代金を払い、店を後にした。コンビニでパンを買って、店の外で座り込んで食べた。

「こんにちはー」
 仕切りのカーテンから顔を覗かせると、お母さんが座っていた。眠り姫は眠ったままだ。看護師が何かをチェックして、去って行った。
「いつもありがとうね」
 いえいえ、と言って対面に座った。
「僕、完全にフリーの仕事してるんで、時間なら沢山あるんです」
 フリーの?と首を傾げている。その動きは少し、曽根ちゃんに似ている気がする。やはり親子なのだなぁと思う。
「絵描き関係の仕事をしてます」
「じゃあ大学でこうと知り合ったの?」
 そう言う訳じゃないんですけど、と口ごもる。何か説明をする切欠を探す。
「あ、鍵! どうしました? 曽根山さんのアパートの鍵」
 俺の突然のフリにお母さんは驚いたような顔を見せ、それから茶色い上質そうな鞄のポケットから鍵を取り出し、俺に見せた。
「そこに下がってる白いアクセサリー、それを一緒に作ったのが縁で」
 お母さんは、へぇ、と笑顔でヘッドを愛でるように指で撫でている。何だか嬉しくて「へへ」とまるで少年のような笑い方をしてしまって思わず口を噤む。
 眠り姫の手元に目を遣る。左手は指先に何か器具が取り付けられていて、そこからコードが伸びている。右手は腕に点滴の針が刺さっていて、管に視線を移すと、機械を経由して点滴の袋に辿り着く。
「お母さん、曽根山さんの右手に、これ、つけていいですか?」
 ポケットに入れていて少し暖まっている透明のビニールを取り出し、お母さんに手渡すと、お母さんはそれをまじまじと見つめ「ブレスレット?」と小首を傾げる。俺は左の袖をまくって、色違いのブレスレットを見せた。
「あぁ、お揃いなの。どうぞどうぞ、こうも喜ぶだろうし」
 そう言って俺にブレスレットを戻してきた。俺は金色のシールを剥がし、中身を取り出すと、透明のビニールは足元にあったくずかごに入れた。ブレスレットを少し緩め、ベッドに乗り出すようにして俺の方にある彼女の右手を通した。ちらっと彼女を見て、この瞬間に目が合ったらいいのに、と思う。
 それから彼女の手首に、きつくない程度に紐を締め体裁を整えると、もう一度、顔を見た。
 目が合ったらいいのに。

 目が合ったら。

 目が。合った。

 鈍く光るその目は間違いなく、曽根ちゃんの目だ。


おぼろげに輝くの最初へ おぼろげに輝く 22 おぼろげに輝く 24 おぼろげに輝くの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前