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おぼろげに輝く
【大人 恋愛小説】

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12-2

 まるでドラマみたいだ。俺は救急搬送口から病院に入り、処置室の外にある黒いベンチに腰掛けて、誰かに話しかけられるのを待っていた。医者でも看護師でも、救急隊でもいい、誰でもいいから曽根ちゃんの状態を俺に教えて欲しかった。頭を抱えたり、貧乏揺すりをしたり、ジャンプをしたり、とにかく何か気が紛れるような事をするのだが、何も紛れやしない。紛れる訳もない。目の前で命が失われようとしていたかも知れないのだ、何もできなかった自分を一生責める事になるかも知れない。
 向こうからスーツ姿の男性が二人、こちらに向かって歩いてきた。俺の方を見ているのが分かる。医者ではなさそうだ。
「曽根山さんが倒れてるのを発見したのは、あなたですか?」
 刑事か、そう直感すると、胸ポケットから、ドラマみたいに警察手帳を見せられた。縦にパカッと開いた警察手帳にちらりと目をやり、刑事の名前も何も確認する暇なんてないんだなと、頭の片隅で考える。
「そうです。太田です。太田塁」
 俺の身分を聞かれ、全て答え、発見時の状況も全て話した。話そうかどうか迷ったが、彼女の為を思って富樫充の話をした。
「日頃から暴力を振るわれてました。それは知ってます。でも富樫があの近くを歩いてたってだけで、刺したかどうかは分かりません」
 刑事は小さなメモ帳に俺が言う事を記入し「分かりました。ありがとう。また何かあったら君の携帯に電話させてもらうから」と言って携帯番号を訊いた。
「あの、今の彼女の状態とかは、教えてもらえないんですか?」
 立ち去ろうとする刑事に縋るように手を伸ばし、言った。
「まだ処置をしてるみたいだから。意識はないらしい。処置が終わったら君のところに看護師か誰か来ると思うよ。彼女の実家にはさっき連絡が取れたから、ご両親がこちらに向かってる。君、会った事は?」
 俺はかぶりを振る。
「そうか。まぁとにかく、何かあったらまた話を聞かせてください」
 そう言うと二人は同時に歩き出し、目の前から消えた。処置室から、機械音と人が動く足音や話し声が聞こえる。その中に曽根ちゃんが動く音が混ざっている事を祈りつつ、俺は目を閉じていた。

「曽根山さんのご家族の方ですか?」
 水色の術着を着ている男性は医者と思われた。
「家族ではないです。発見者です。あの、彼氏です」
 あぁ、と言って「こちらに」と仕切りのある部屋に通された。
「警察の方はご両親がくるまでに時間がかかると言っていたから、とりあえずあなたに報告しておきます」
 俺は黙って頷いた。暖房が入っているはずの院内なのに、やけにひんやりした空気に辟易する。
「彼女は、一命は取り留めた、と言っていいと思います。ただ出血量が多かったものでね、発見者なら分かってるだろうけど。今、輸血をしている状態です。暫く意識は戻らないかも知れない」
 平常心を保とうと頭は動いているのだけれど、バカ正直な身体は涙を流す。何が悲しいんだ。命は取り留めたと言っているではないか。
「何事もないとは思うけど、何かあったときのために、ご両親が来るまでこのまま待機してもらえればと思うんだけど」
 口を開けば嗚咽にしかならないと思い、俺は無言のまま頷き、席を立った。勝手に肩がひくつく。
 元いた黒いベンチに座り、ポケットから曽根ちゃんの家の鍵を取り出した。もう片方のポケットにはペンダントヘッドがある。それも取り出すと、鍵についていた猫のキーホルダーのリングに、ヘッドを通した。ヘッドは作ったときのまま、艶やかな多色の光を反射している。
 光を、失わないでくれ。俺はそのヘッドを握りしめ、ぼたぼたと垂れる涙を手の甲で拭いた。


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