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おぼろげに輝く
【大人 恋愛小説】

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「もう、何があっても、十六人目の俺以外と関係を持たないって約束してよ。指切りげんまんで針千本ケツからケツバットでブッ刺すって事で」
 そう言い小指を立ててテーブルに置くと、曽根ちゃんは暫く俯いて考え込んだ末に「冨樫はしつこい。私は追い払う自信が無いんだ。その、あの、塁がそういう時は守って......」
 そこまで言うとそれから先は進めない程頬を赤らめて顔を硬くしている。
「俺じゃ勝ち目がないかもしれないけど、守るよ。十六人めで止めて見せる」
 すると俯いていた顔をあげて、キラキラの笑顔で俺を見た。キラースマイル。こういうのを言うのか。俺は彼女の笑顔に殺される。彼女は細くて「小指」と言う名に相応しい小さな指を俺の指に絡ませ、数回振り、解いた。
「ケーキ、食おうぜ。久野夫妻のオススメだ」
 そうなんだ、とまた平坦な曽根ちゃんに戻り、ケーキの準備に取り掛かった。

 目の前に置かれた茶色いケーキを突きながら、俺は努めて明るく切り出した。
「曽根ちゃんは何で俺の告白にOKしたんだ? セフレの冨樫君がいるのに」
 首を傾げ、フォークに刺さったイチゴを見つめたまま「何で......」と深く考えているらしかった。俺は彼女が口を開くまで黙ってケーキを食べていた。甘いものは好きだ。
「何か、第一印象から惚れた。それに、あんな風にストレートに、純粋な目で告ってくれる人は、初めてだったし。ネックレスも嬉しかったし、この人はセフレじゃなくて、真面目に彼氏になってくれる人だなって思ったから」
 言ってくれている言葉は小躍りする程嬉しいのに、何故か目が死んでいる曽根ちゃんに、悲しい程親近感が湧く。
「言っとくが俺は童貞だからね」
 その一言に彼女は露骨に反応する。
「このまま行くと、曽根ちゃんが始めての女だ。責任重大だよ? 俺の童貞を捧げんだよ?」
 曽根ちゃんは真っ赤になって「童貞、童貞ってうるさい」と一蹴する。
 俺はケーキを食べ終わって紅茶を飲むと「時々仕事の合間にこうやって、遊びにきてもいい?」と、ケーキを頬張る彼女の顔を覗き込んだ。
「だ、彼氏なんだから、当然でしょ」
 フォークを口から引き出した曽根ちゃんの口角に薄茶色のクリームが残った。俺は体を乗り出して、人差し指でそれを拭うと、口に含んだ。十五人とセックスをしてきたとは思えない、初恋の様な反応に卒倒しそうになる。ろくな恋愛してきてないんだろうなあと同情も混在する。
「本当は何かクリスマスプレゼントを用意した方がいいかとも思ったんだけど、如何せん急でさ。ゴメンね、何もなくて」
 俺は首の付け根をぽりぽり掻いて誤魔化した。ケーキを食べ終えた曽根ちゃんは、皿を盆に載せてキッチンに運ぶと、俺の対面ではなく横に座った。俺の部屋とは違い、ラグが敷いてある。
「プレゼント、ちょうだい」
「は?」
 彼女の無機質な目線に射抜かれると俺は体を硬くした。
「こういう事を男に言った事ないから、一度しか言わないよ」
 俺は耳の穴をかっぽじれるような状況ではなかったが、「うん」と彼女の口から放出されるひと言も拾い逃さないように、じっと口元を見た。が、なかなか声が発せられない。そのうち、強かった視線を急激に弱いものにし、俯いてしまった。腕で体を支え、消えいるような小さな声で言う。
「キスして」
 何と無く予期していた事にもかかわらず、曽根ちゃんから出てくる攻撃としては超ド級の破壊力を持っているその言葉に俺はたじろいだ。俯く曽根ちゃんの顔に俺の顔を傾けて覗き込むように短くキスをした。
「ちゃんと、ちゃんとしたキス」
 そう言われるとこの体勢はキツイ訳で、俺は曽根ちゃんを抱き寄せると、桜色の唇に触れ、長く深く、キスをした。終わりが見えないぐらいに長かったように思うけれど、ほんの数秒だったのかも知れない。そこには二人の時間が流れていた。曽根ちゃんはそれ以上を求めていたのかも知れないけれど、俺にはそこまで行き着く力量がまだ無かった。
「こんなクリスマスプレゼントで悪いな。リボンぐらい掛けとくべきだったな」
 曽根ちゃんは頭を振って「こんなに心のこもったプレゼントは初めてだよ」と俯いたままで口角をあげている。本当はその顔をまじまじと拝みたかったが、近い将来見る事ができるだろうと思い、とっておく事にした。ケーキのイチゴは最後まで取っておくタイプなのだ。
「俺、実は、今晩が納期の仕事が残っててさ、帰らなきゃなんないんだ。その報酬ですぐにテーブル買うから。もし暇ができたら、うち来て。連絡してくれれば都合つけるし」
 曽根ちゃんは暫し考え込んだ末、「また連絡するから」と言う。富樫の事で二言三言注意でもしておこうかとも思ったが、やめた。口うるさい男なんて嫌われるに決まっている。
 俺は曽根山家を後にした。


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