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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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fainal2/2-38

 足立は、打席に入るなりバントの構えをとった。
 それを見て、沖浜中ベンチから内野に指示が飛ぶ。サードとファーストの守備位置をベースより三メートルほど前に、セカンドを右にショートを左に移動させた。
 完全に三塁アウトだけを狙った布陣だ。
 誰しもが、バントと解んだ中でそれは起こった。
 ピッチャーがセットポジションから左足を上げた瞬間、森尾と乾のスパイクの爪が、地面を蹴ったのだ。

「なッ!」

 二人の行動は相手ばかりか、仲間をも呆然とさせた。それほど、予想だにしない出来事だった。
 足立はバットを引いた。ボールを捕ったキャッチャーが送球の体勢で三塁を見ると、誰もカバーに入っていない。
 完全に裏をかかれた始末だ。

「ヨシッ!よくやったッ」

 永井はニ度、三度と手を叩いて選手を讃える。
 策を練るのは指揮官だが、それを叶えるのは選手の力量あってこそ。逆にいえば、足立というバントの名手だからこそ、成し得た策だといえる。
 これで併殺される不安は無くなった。足立を自由に打たせることが出来る。永井は再び、サインを送った。

 沖浜中は、内野全員が前進守備の体系で外野の守りも浅い。なんとしても追加点を阻止するつもりだ。
 足立はバントからバッティングに構えを戻した。普段より広いスタンスで、バットを短く握っている。
 ピッチャーが、セットポジションから投球動作に入った。
 乾の時よりも躍動したフォーム──盗塁の畏れのないことが彼を大胆に変えた。
 深い前傾から振り抜かれる右腕。放たれたボールは地を這い、浮き上がるような伸びを見せて、キャッチャーのミットを叩いた。

「ストライク!」

 乾の時とは比較にならないボールだった。
 足立はベンチを見た。永井からは“待て”のサイン。
 三球目はチェンジアップを投げてきたが、低めに外れた。
 これで、カウントはニボール一ストライク。足立は再びベンチを見る。永井が送ったサインは“行け”だ。

(落ち着け。何度もやったことだ……)

 足立の鼓動が速くなる。昂る気持ちを心底に秘めて、平然さを装おう。
 キャッチャーは、足立の一挙手一投足に至るまで注視し、何を狙っているかを探り出そうとする。
 ピッチャーは、サインを確認してセットポジションの構えをとった。
 突き上げるように左足を上げ、反動から低い姿勢となった瞬間、三塁ランナーの森尾が本塁へと駆け出した。
 時を同じくして、足立がバントの構えをとった。

「スクイズだ!」

 伸びのある真っ直ぐが、空気を裂いて迫ってきた。足立は瞬きする間もない短時間で、バットをボールの軌道に合わせる。

 ──コン!

 ボールはバットに当たり、ピッチャーの正面に転がった。
 ピッチャーがボールに駆け寄っていく。キャッチャーはホームベースの前に立ち、ファーストを指差して指示を出す。

 その時だ。

 キャッチャーは予期せぬ衝撃に、受け身をとる余裕もなくふっ飛ばされた。
 森尾の進路をふさいだ為、身体をぶつけられたのだ。
 キャッチャーは、身動き出来ず、地面に伏している。森尾はその姿を一瞥しただけでベンチに退いた。


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