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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 終-5


 二人を遠目に眺めながら、王子は難しい顔で腕を組んだ。

「……俺と居るときとは顔つきが違うな」

「当たり前ですよ。婚約者なんでしょう。同じ態度だったら気味が悪い」

 エイの冷静な応答にも、王子は納得のいかない風だった。

「あいつはツミの里の次期頭領だぞ。人によって態度を変えるのは上に立つ者として失格だ、失格」

「たぶん、彼もあなたには言われたくないんじゃないかと思いますが」

 皮肉めいた言いぐさに、王子は驚いたようにエイを見た。

「……言うじゃないか」

「気に障ったなら、”絶交”しますか?」

 かすかに笑いながらのエイの言葉に、王子はにっと口の端を吊り上げた。

「するわけないだろう。ツミの娘を守れる『人間』がこの世界のどこにいる?」

 他のどこにも居ない。王子は自分の問いかけに自ら答えた。
 彼は強い口調で続けた。

「お前は、最高に役に立つ親友だ。俺の傍にいろ。絶対に離れるな」

 役に立つ、とは通常なら友に対する修辞ではなかったが、エイに限っては違った。
 彼は王子の言葉に、嬉しそうにはにかんだ。


※※※


 捕獲された兵は、イスルヤの軍であることを白状した。
 だがイスルヤ王の差し向けたものではなく、南風之宮にロンダーンの王子と王女が二人ながら参拝中であることを知った国境の街の領主が独断で行ったことである……というのがイスルヤの言い分だった。
 イスルヤ王はすぐさま国境侵犯の暴挙を詫び、くだんの領主を捕らえ、断罪した。

 弾劾を受けた領主の言い分はこうだった。

 ある夜、一人の魔法使いが領主のもとを訪れ、秘術によって従えた魔族の軍隊を貸し与えると告げた。
 魔法使いは王への忠義心を煽って彼に襲撃を唆したという。
 だが魔法使いの姿を見たものはなく、魔族を従えていたのは領主本人のようだった、と周囲の者は語った。

 事態が収束してその報告を受けたロンダ―ンの上層部は、首をひねった。
 発端と見られる出来事が、昨年起こった戦争とよく似ているように思われたのだ。

 昨年、西の小国アールネが、それまで外交上まったく問題のなかったロンダ―ンの国境に、前触れもなく突然攻め入った。
 その少し前、国主のアールネ公が正体不明の魔法使いの訪問を受けていた、という公弟エイの証言は、彼らの耳に新しかった。



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