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金魚とアイスクリーム
【純文学 その他小説】

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本文-3

 「金魚を買いにペットショップを捜したら、熱帯魚屋さんを紹介される。ぼくは地図が苦手なので道に迷ってしまう……というか地図を見ながら歩くのが田舎者らしくて我慢が出来ず、適当にぷらぶら歩くものだから迷うのも当然だ。道の途中で立ち止まり引き返す、そんな真似がぼくには出来ない。道を選んでしまったら端まで進むしかない。内心焦りでイライラしながら、顔だけは平静を装って歩いてゆく。目に入るのは知らない店ばかり。靴屋、スーパー、雑貨店。これ以上進むのはまずいからと、とりあえずスーパーに入って方向転換を図ることにした。
 午後二時。店内に入って最初に確かめたのが、この時間。時計をなくしてから、少しだけ時間感覚が身についてきたような気がする。街に出ると昼食を取らないぼくだから、パンと飲み物を買ってカウンターに並ぶ。お腹が空いていたんだ。
 店員の手つきがおぼつかない。ビニル袋を必要以上にくしゃくしゃに広げて、ジュースからでぱなく、パンから袋に詰めようとする。袋が小さすぎる。

 『126円のお返しです』
 レジのふたを開けるあいだに、袋の上の瓶が転がり落ちる。ガシャン。瓶が砕けてズボンの裾を濡らす。ぼくは驚いて足元を見つめて、ゆっくりと店員の顔を見上げた。わかいひと。今まで気づかなかった、店員も生きた人間なんだな。
 『すみません』
 いそいそと片づける店員の背中、乱れた髪の匂いに久しぶりに感慨を覚える。何をしていいかわからずに、気ばかり先走って焦る彼女の愛らしさ。名札に書かれた『土屋』の文字。
 『いいよ、いいよ』
 軽く声を掛けて、割れたジュースをもう一度取ってくる、あの店員にも一本用意して。レジ打ちが済んだら言うんだ。『はい、これは拭いてくれたお礼』……『困ります』と言う前にその場を立ち去ろう……でも実際はこのとおり、結局同じジュースを2本ぶら下げて歩いている」


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