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たねびとの歌
【ファンタジー 官能小説】

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お屋敷にて-2

見ると大きな長いテーブルの一番奥に一人の50代くらいの紳士が座っていた。
ガウンのような部屋着を着て寛いでいるのだろうが、ぴんと伸びた背筋と厳粛な顔つきを見たとき、決して寛いでいるのではないと思った。
「こ……こんにちは」
わしの声は震えていた。すると何故か低い声がすぐ近くから聞こえた。
「闇の種付け師か」
「はい……いえ、私は」
その紳士はわしより若いのに、わしよりずっと年長のような気持ちにさせる。
目は鷹の目のように大きく鋭い。
鼻は高く長い。唇は薄く、何故か残忍な印象を与える。
「わしの娘の種付けをしてもらう。
だがそのことを口外するとご老人の為にはならない」
それだけ言うと、わしの横にいる女性に目で合図をした。
「こちらへ……」
わしは女性に案内されるまま、今度は寝室のような所に連れて来られた。
わしはその女性に言った。
「あのう、そのつまり、わしはあんたのことをなんて呼べば良いんだね」
「ミツナと言います」
「じゃあ、わしはミツナさんに種付けをするのかい?」
「違います。わたしはお嬢様つきの使用人です」
「そうだよね。でも肝腎のお嬢様ってのにまだお目にかかっていないものだから」
するとミツナ女史は険しい顔になり、低い声でゆっくりこう言った。
「下品な言葉遣いはやめてください。
お嬢様のルイカ様は、あなたのような人が口を利ける方とは違います。
ご主人様の命じられたことですが、私はあなたをルイカ様に会わせることには反対です」
「えっ、じゃあどうしてわしを連れて来たんですか? 
ルイカ様は受精資格がないから闇の種が欲しいのでしょう?」
「違います。資格は取っています。
けれども候補者の種人と遺伝子的に相性が良くないのです。
ご主人様は強い子孫が生まれることを望んでいらっしゃるので」
「わしの種の場合はその点大丈夫ってことかい?」
「ええ、検査をしましたから」
そのときわしは思い出した。ファースト・フード店でわしの使ったグラスをハンカチに包んで持って帰った男達のことを。
あのときグラスについた唾液から検査したんだなと確信した。
「病院の検査でも変な病気は一切ないし、驚くほどの健康体ということが証明されています」
「それでわざとぶつけて、検査させたのかい?」
わしは驚いた。何から何まで種付けの為の事前調査だったのだ。
わしはミツナ女史に聞いた。
「それなのに何故、種付けに反対するんだね」
「あなたが下品だからです。入浴で体を洗わせているとき、欲情していましたね。
それもずっとし続けていました。
あんなふうに所構わず欲情する、恥知らずな人をルイカ様と同衾するのを許すなんて!」
「ちょっと、待った。そりゃあ、男ってそんなもんなんだよ。
あんな綺麗なお姉さんたちによってたかって体を触られれば、その……欲情するのは当たり前なんだよ。
むしろ、それは健康な男の証明になるんだ。さてはミツナさんは男を知らないね?」
「失礼な!」
「あっ、ごめん。じゃあ、Hをしたことがあるのかい」
「ありません。そんなことをどうしてそう簡単に口にするんですか」
「ないのか? 若くて綺麗なのにもったいないな。なんならわしがしてやろうか?」
そのときバシーンと音がして、目の前に赤い星が飛んだような気がした。
ミツナ女史がわしの頬を叩いたのだ。怒らせてしまったらしい。
わしは都会の娘っ子の事情を知ったから、親切な積りで言ったのだが却って相手を侮辱したことになったらしい。
「ミツナ……そこで何をしてるの?」
わしは急に現れた女性がルイカお嬢様だということがすぐわかった。
父親と同じく鷹のような大きな目をしていた。
鼻はくちばしのように先が尖って高かった。
肩まで垂れた髪は艶やかで動くたびにふわりと揺れた。
 


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