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雑踏の片隅で
【その他 官能小説】

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卒業-15

 タケシとの朝の鍛錬は、しばらく続いた。
 彼は拳を出すより、蹴りが強い。拳は防御と牽制に使って、威力の強い蹴り技の方を攻撃に使わせた。
 上段・中段・下段の蹴りを教えると、体幹が異様に強く柔軟性のある体だからなのか、中段の蹴りと見せて、上段あるいは下段に軌道を変える蹴り技など、防御の難しい技も覚えた。
 悔しいが、鍛錬を積んだあたしでさえも、完全に受けきるのは難しい。
 蹴りについては才能というしかなく、特に上段の蹴りはやはり切れがあった。
 
 それから二週間ほど経った頃だろうか、タケシが別れ際に言った。

「あの……明日、聞いて欲しいことがあります」
「へぇ、何かしら?」
「それは、明日言います」
「そう……ねぇ、タケシ君。ハイキックは使ったら、駄目よ」
「え?」
「あなたのハイキックは、素人には切れがありすぎるわ。少年院には行きたくないでしょう?」
「……わかりました」

 ふと、一緒に付いて行ってやろうか? そんな事を言いそうになったが止めた。
 彼の顔を見て、それは必要ないことだと思ったからだ。
 自分の運命を切り開いていくような、力強い瞳をしている。
 今の彼は、優しいだけの男ではなく、強さも兼ね備えているように思える。
 それは、あたしとの鍛錬で身についたのではなく、元々彼に備わっていたものだ。
 ひと月かそこらで身につくようなものではないのだ。
 彼は、本来居るべき場所に戻っていける。
 あたしは、タケシの背中を見つめながら、それを確信していた。


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