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『BLUE』
【スポーツ その他小説】

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『BLUE』-31

《引き続き男子バタフライ最終組のコース順を申し上げます。
・・・第三のコース、木本健一君。池田高校》

プールサイドにいる木本を見下ろすと、彼は視線を真直ぐに見据えたまま柔軟運動を繰り返していた。
緊張はしてなさそうだ。

空砲の合図と同時に選手達が飛び出すと木本も遅れずに良いスタートを切った。それに応じて観客席がどよめくと各高校の応援が始まり辺りが騒がしくなっていった。
涼生は片手に持ったストップウォッチを確認しながらラップタイムを記入していく。

こんにちは、と声が掛かったのは木本が50の折り返しを過ぎたところだった。
紙上のラインに〇をつけて振り向く。
背後に立っていた深間が隣に座りながら言った。

「速いね、彼。君のとこの人でしょ?」

「木本だよ・・・知らなかった?」

ああ、と深間が頷くとプールの方を目を細めるように見下ろした。

「知ってるよ。種目は違うけど有名だから」

「それ、アイツに言ったら喜ぶよ」

時間を計りながら言い返す。木本の調子は良さそうで現在の順位は二番手争いをしているといったところだ。
残り25m付近に来たところで涼生は立ち上がった。
ゴールが近づくにつれて周囲が騒がしくなっていった。
先頭グループが一気にスパートをかけたからだ。

「頑張れ!ラストだぞ。もう少しだ」

深間が一緒になって立ち上がると前掛かりになって応援しはじめた。
涼生も念じるようにコース上の木本を凝視する。
手に持った鉛筆を祈るように握り締めた。

パンッ!!

スタート時と同じ空砲が鳴り響く。誰かがゴールラインを切った。

電光掲示板に表示された木本の順位は2位・・・先頭の選手とはほとんど差が無く頭一つ分離れた格好で逃げられてしまった。

「惜しかったね、あと5メートルあれば抜かせてたのに・・・」

隣でがやがや言っていた深間が残念そうな声で言った。
涼生は目の前の手摺りから顔を覗かせるとプールから退場する木本に声をかけた。
最初はどんまい、と励ますつもりだったが彼は笑顔で手を振ると満足しきった表情でプールサイドを出ていった。それで涼生も何も言わずに黙って彼を見送ることにしたのだ。

《プログラムNo.13女子100m自由形タイム決勝のコース順を申し上げます。》

会場に次のアナウンスが響き渡る。
涼生はそれを聞いて幾分緊張した手つきでページをめくった。
いよいよ水原が出場する種目が来たからだ。

《第四のコース・・・水原奏子さん、池田高校》

彼女の名前が呼び出された途端、会場の空気がガラッと変わった。
観客席の目が一斉にある一点に注目するのを肌で感じた。水原はそんな周りの視線など感じていないかのように集中している。


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