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『BLUE』
【スポーツ その他小説】

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『BLUE』-29

第5話


夏が本格的に近づいてきた頃だった。
水泳部の練習は活気を増し、部長の木本を中心にして再び動きだしたのだ。
休みがちだった他の部員に関しても心配していた涼生だったが、それを聞いた木本は自信有りげに大きな声でいった。

「リレーの人数が足りない?アイツ等を使えばいいじゃないか、どうせヒマしてるし。
何・・・部活に出てこない?しょうがねーな、全く」

と頭を掻いてしばらく考えていたがやがて、とりあえず俺に任せとけよ。と笑うと翌日、半ば諦めかけていた残りのメンバーを本当に連れてきたのだ。
彼らは少し気恥ずかしそうに涼生に向かって頭を下げた。
どうやら木本が一人ずつ説得して呼び戻してくれたらしい。一体どんなマジックを使ったのか知らないが、もともとは皆、木本に惚れ込んで集まってきた連中だった。その彼が再び立ち上がったのだから無気力だった部員達もやる気をださない訳にはいかないのだろう。
とにかくこれで大会に向けて一つ、大きな課題が減ったことになる。
順調なのはチームだけではなかった。
1500、800リレーに出場する涼生自身のタイムが飛躍的に上がり始めたのだ。
まだまだ深間とは雲泥の差があったがとりわけ短距離専門の彼に勝つべく、1500を泳ぎ抜けるタフな体をつけるための徹底的な体力づくりに努めた。
短期間で速くなるには水原の考えは当たっていた。
長い距離をひたすら泳ぐことによってフォームが安定し、100、200の短い距離なら全力で泳いでもほとんど息切れすることもなくなっていた。
日課となった早朝のマラソンもかなり役立っているらしい。
水原には本当に感謝していた。普段は練習中に命令のような指示を強要する彼女だったが、いわれたメニューをこなすと必ず涼生に向かって微笑みかけてくれた。

放課後の夜に二人で屋内プールを泳ぐ時間が好きになった。
水原は水の中では真剣な表情を崩さない。そんな彼女を横目に見ながら涼生もいつしか泳ぐことに集中していった。


涼生はいつものように鍵をかけて部室を出た。
ここ数日は梅雨の名残なのか雨が続いていたが、今夜は雲もなく月がよく見える。
明日はきっといい天気になるだろう。

屋外プールの横手に差し掛かったとき、フェンスの向こう側に人影がみえた。
こんな時間に誰か残っているのか気になった涼生はフェンスをよじ登ると覗き込むように顔を上げた。

「なにやってんの?」

声をかけるとその人影が月明かりに照らされて輪郭を成した。
水原はまだ少し濡れたままの水着に身を包んでプールサイドの隅に腰を下ろしていた。

「風邪引くぜ、そんな格好してると」

「明日、晴れるかな?」

こちらの問いには答えず呟くように水原は夜空を眺めた。涼生はどうかな、と言い返すとそのままフェンスを乗り越えた。彼女の横に座り同じように空を仰ぐと、さっきより月が綺麗な形をしていた。

「天気予報は大丈夫だって言ってたけど」

彼女は頷くと視線をこちらに向けて安心したような笑顔をつくった。
涼生もそれに応じて笑った。


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