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勝利の女神は側にいる
【その他 官能小説】

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勝利の女神は側にいる-6

−結局この日は、日付が変わる寸前まで飲んでいた。
明人さんのマンションは近くにあるらしい。しかし僕の場合、電車で30分以上かかるとこにアパートを借りている。
二人で店を後にし、駅へ向かう。
『実は和哉も昔なぁ、パチンコにハマってたんだよ。』
明人さんが話し始めた。
『しかも、大学時代にだぜ。仕送りは使いきるわ、単位は落としかけるわで大変だったんだから。趣味レベルでギャンブルを楽しむのは悪い事じゃない。だがそれが、生活の一部を壊してしまう様になったら…』
黙って聞き入った僕。
『和哉はお前に、昔の自分を重ね合わせたんだろ。余計なお世話かもしれないけど、和哉は和哉なりに心配してんだよ。』
社長と明人さん。この二人が親友同士なのがよく分かった。明人さんの言葉、それが社長の心の中にあるモノ。そう思えてならなかった。
そして駅に着いた。
『明人さん、今日は本当にありがとうございました。こんな僕の為に…』
『お前一人の為じゃねぇよ。和哉の為、パチンコ屋の姉ちゃんの為、そして会社全体の為でもあるんだ。見返りなんか求めねぇ。でもな、必ず結果を出してから俺の前に姿を現わせ。』
ぶっきらぼうな言葉の裏に隠された優しさ。明人さんがカッコよく見えた。
僕は二度三度、頭を下げてから改札を通った。ギリギリ最終電車に間に合う時間だった。
電車を待ちながら、今日の事を考えた。自らが招いたミス。結果、こんな形になってしまった。
しかし、これによって分かった事があったのも事実だ。自分の弱さを痛感したのと同時に、沢山の人間に支えられて生きている。そう、実感した。
最終電車がホームに到着した。乗客はほとんどいない。
シートの端っこに座り、目の前の窓の外を眺める。時計は12時を回っていた。車窓を流れる街はネオンに彩られ、休む事を知らずに輝いている。
…ガタンガタンッ!
規則正しいレール音が響く。少しずつだが、外の明かりが減ってきていた。
…ズキッ!
口の中に痛みが走る。社長に殴られた事。怒りなど感じない。今はただ、僕に出来る事、しなきゃいけない事を実行するだけだ。
…プシューッ!
電車が止まり、僕は駅に降りた。外に出ると、辺りは静けさと闇に包まれていた。等間隔に立てられた街灯が、小さな明かりを作り、狭い道を照らしていた。
…ブルルルッ!
いきなり携帯が震えた。明人さんからのメールだった。
〔無事に帰れたか?今日はお前と話せてよかったよ。明日はバッチリ決めてこいよっ!じゃ、またな。返事はイイぞ。〕
僕も同じだった。初めて明人さんと飲んだ。冗談を交えながら、核心を突く発言。そして、こんな僕の為にわざわざ時間を割いてくれた事。
今の僕に、一体何が足りなかったのかを分からせてくれた。いくら感謝をしても、し足りないくらいだ…
今日の酒は口の中に染みた。しかし、それ以上に心の中に染み渡った。そして、格別にウマかった。
今晩のビールの味。僕は生涯、忘れないだろう…

−カーテンの隙間から光が差し込む。それによって目が覚めた。
『ん…
うぅぅん…』
時計は11時を過ぎていた。
シャワーで汗を流し、スーツを着る。覚悟の表れだった。
『よしっ!
勝負だっ!!』
気合い注入。両手で頬を叩く
…パシッ!
『痛って〜っ!!』
昨日の件で口の中が切れていた事を忘れてた。これじゃ、先が思いやられる…

−時間は午後1時。僕は駅のホームにいた。彼女のシフトは遅番なんで、まだ時間がある。
《昨日、黙って帰っちゃったしなぁ…》
明人さんとホールを出た時、声をかけるのを忘れてた。あの時は、明人さんに見つかった事で頭が一杯だった。
しかし、昨日の明人さんの爆弾発言のおかげで、今は彼女の事で頭が一杯。社長の事など、完璧に忘れていた。
…プシューッ!
ホームに電車が入ってきた。
《彼女、怒ってないかなぁ…》
そう思いながら僕は、電車に飛び乗った。
平日の昼間だけあって、車内は空いていた。シートの端っこに座り、目の前の窓の外を眺めた。
昨晩と同じ、しかし明るい景色が車窓から飛び込んでくる。
山林の部分が少しずつ減り、住宅やそんな高くないビルが見え始めた。
…ガタンガタンッ!
規則正しいレール音。
全てが昨晩と同じ。しかし、唯一違う部分があった。
僕だ。
今の僕には目標がある。そして今日、それを達成させる為、同じ電車に乗ったのだ。
《必ず、彼女に…》
勝利の女神。僕にはその微笑みを見る事が出来るのだろうか…


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