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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 4-8


 眼前の魔族を見据えると、彼は再度踏み込んだ。
 今度は牽制ではなく一足飛びに間合いを詰め、斜め上段から斬り下ろす。相手は反応できずに立ち尽くしている。

 捉えた。

 そのまま斬り伏せようと剣を振りきる。
 ……が、手応えはなかった。替わりに厚い外套が、ばさりと刃にまとわりつき地に落ちる。

 うふふ、と楽しげな笑い声がエイの耳をくすぐった。
 顔を上げた先では、病人のように痩せ細った男がうつろに笑っていた。

 じゃらじゃらと派手な金銀象牙の装飾品を頭や首、二の腕に幾重にも巻き付け、どこか呪術的な文様の織り込まれた衣服を纏っている。
 ロンダーンの民が見れば、建国の伝承を元にした伝統的な文様だとわかっただろう。『導く白い鳥』をかたどった、なじみの深い意匠だ。
 だが外国人であるエイは知らず、その持つ意味に気付かなかった。
 彼にとって意味を持っていたのは、男の外観が人間そのものにしか見えない事実と、彼の両手に握られた細身の鋭い両刃剣だった。

 男は笑みを浮かべたまま、わずかに視線を上に動かした。エイは地を蹴って、前方に踏み込んだ。
 がっ、と音を立てて、彼のいた地面が見えぬ刃に抉られる。
 彼は止まらず、そのまま剣を下段に構えて走った。

 打ちつけたり圧したりといった力ならばともかく、斬る力は少々厄介だ。
 ただ、エイの体に肉薄した場所に出現させられるわけではないようだ。
 彼の間合いのぎりぎり外に空気の刃は出現し、その場所から投げつけるかのように加速がついて彼の元に到る。出現位置からの移動は直線的だ。
 幾度か回避に成功して、エイは小さく頷いた。……対応できる。
 出現を見きわめるのは容易ではないが、相手の目線からある程度予測することはできた。
 右に、左にと体をさばきながら前へ前へと進行する。敵に再び肉薄するまでにさほど時間はかからなかった。

 ガン、と鋼の打ち合う音が響いた。
 魔族は『力』ではなく、両手の剣を交差させて彼の刃を受け止めたのだ。
 エイは長く組み合わず、打ち合った瞬間にも剣を浮かせた。相手が勢いあまって前にのめった隙を逃さず足を退き、首を叩き落とそうと振りかぶる。
 男は逃れようと身をよじるのではなく、なぜか腕を広げて、そのまま彼に倒れかかろうとした。
 エイは虚を突かれた。はからずも、目の前の男の胸部を浅く切り裂いてしまう。

 その刹那、しまった、と内心で彼は舌を打った。
 体勢が悪い。このままでは返り血をまともに顔面に浴びるだろう。血で視界がふさがれてしまう。避けきれない……!


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