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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 4-3


 言われた通り親衛隊を外に残してアハトが入ってくるのを確認した王子は、図面とにらめっこをしながら床の一箇所を示した。
 示されるままアハトは覗き込んだ。石畳の一つに鎖が埋め込まれている。
 これは何かと訊ねる前に王子が顎で促した。

「鎖を引っ張れ」

 人にものを頼む態度ではないが、この非常時だ。アハトは文句を呑み込んで言うとおりに鎖を片手で掴んだ。

 引いてみると、ゴ、と硬い音をたてて石柱の頭が浮き上がった。思ったよりも重い。人間では数人がかりの作業になるだろう。
 王子は手伝う素振りも見せない。腕を組んで見守るのみだ。

「……」

 別に手伝ってほしいわけではないが、釈然としないままアハトは両手で鎖を持ち直した。
 力を込め、一息に石柱を引きずり出す。
 アハトの背丈ほどもある大理石の塊が、轟音を立てて床に落ちた。

「おおっ」

 王子が歓声をあげて目を輝かせた。深く穿たれた正方形の穴に、隣り合って嵌め込まれていた石柱が、ゴトリと倒れ込んだのだ。
 斜めに倒れた石柱は、地下へと続く階段になっていた。

 王子はさっさと階段をくだった。人ひとり通るのがやっとの小さな鉄の扉を開く。
 とたんに噴き出した油の臭気に、アハトは顔をしかめた。
 見れば、広い地下倉には無数の油甕が敷き詰められている。
 王子は手近の油甕にラベルされた日付を調べ、よし、と頷いた。

「使えそうだぞ。表の連中に運び出させろ」


 親衛隊と神宮衛士隊が油甕を運び出すのを横目に、王子は図面を片手に歩き出した。

「あちらの社の地下には武器庫があるようだ」

 ついてきたアハトに彼はそう告げた。

「当面は剣や槍よりも弓と矢が必要だな。十分な数があるといいが」

 アハトが無言でいると、王子が見透かしたように笑った。

「驚いたか? 避難所だといったろ」

「籠城戦用とは……天災の折のことを言っているのかと」

「もちろんそれもあるぞ。食糧や水や土木資材は本殿と参拝客宿舎の倉庫に備蓄されている。そっちは普通に鍵がかかっているだけなんだが」

「……ああ」

 得心がいったとアハトは頷いた。

「確かに、一般避難民に開けさせる仕掛けとは思えなかった」

「こちらを開けるとしたら戦える人員が複数いるときだけだろうからな。そういう算段なんだろう」

 大陸有数の軍事大国であるロンダ―ンらしい備えだった。
 全ての神殿に同様の備蓄がされ、定期的に近隣の領主による点検が義務付けられているのだという。

「仕掛け自体は建国初期にあったものを参考にした、かなり古い造りらしいぞ。まだお前たち一族が、地方に降った王族にも付いていた時代だ」

 自分で語っていて、王子は何かひらめいたようだった。

「そうか。つまり、避難してきた中に王族がいれば、ツミが最低一羽はいる、という計算かもしれんな」

 誇り高いツミの一族を、重機扱いである。
 得意げに自説を披露する王子に、アハトは顔をしかめた。


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