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掴み取れない泡沫
【大人 恋愛小説】

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27.久野智樹-1

 サイズはぴったりだったようで安心した。指輪のサイズなんて考えた事がなかった。お店の店員に「これぐらいの背格好で細くて」と分かりにくい説明をして何とか買った。俺にしてはなかなか痛い金額のダイヤモンドプラチナリングだが、この指輪を一生はめて行く事を考えると、決して高い買い物ではなかった。
 暗くした部屋の中で布団から腕を伸ばし、射し込む街灯に指輪を反射させている。「奇麗」そう彼女は言って笑顔を見せるのが、暗がりでも分かる。俺は隣にごつい指を並べて「何か、いいな」と笑う。
 俺が君枝を守って行く。誓いの指輪。死が二人を分つまで。そんな言葉が頭をよぎる。仲の良い友人と両親だけを呼んで、小さな結婚式をしよう。そんな事を考える。
「ねぇ、智樹」
 思考を分断するように声が届き「うえぇ?」と素っ頓狂な声が出る。
「今日ならできる気がするの。智樹に結婚して欲しいって言われたから、もう赤ちゃんができても困らない。赤ちゃんつくるためなら私、できると、と思うの」
 ぽつりぽつりになりながら、決心を固めた君枝を抱き寄せ「赤ちゃんができても、いいんだね?」と意思を確認すると、俺の胸の中で彼女は大きく頷いた。

 優しく優しく、ガラス細工の飾りでも触るように前戯をする。彼女に変化がない事に安堵する。勿論俺の倅も、いつも通りな訳で。
「もう、赤ちゃんの元、入れても大丈夫だよ」
 耳元で囁くように君枝が言うので、俺は彼女の腰を少しずらして濡れたそこにゆっくりと、ゆっくりと、奥まで押し進めた。
「大丈夫?」
「うん」
 その返事は少し自信なさげな物だったけれど、彼女の言葉を信じて、少しずつ俺は腰の動きを早めた。彼女はきつくて、暖かい。何度か「大丈夫?」と声をかけようかとも思ったが、彼女からギブアップが出るまではそっとしておく事にした。俺もその方が没頭できる。
 日頃自分で処理をしていたせいか、俺はとんでもなく早くイってしまいそうだったが、我慢する必要性も見いだせなくて、「イキそう」と君枝に声をかけ、俺は最後まで成し遂げた。そのまま倒れ込むように君枝を抱き寄せた。
「最後まで、できたよ、君枝」
 泣いているのか、頷くばかりで声が出ていない。代わりに嗚咽が聞こえてきた。俺だって嬉しい。何年越しだ。
「赤ちゃん、できた、かなあ」
 泣きながら言葉を零す君枝に「そう簡単にはできないらしいぞ」と言うと、泣きながらクスリと笑ったので、器用だなぁと思う。


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