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白面の鬼
【ホラー その他小説】

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白面の鬼-4

「罪を認めた団員達は拷問を逃れることは出来たが、ほとんどが死に、生き残った者は廃人になった。そして、今、まともに生き残っているのはお前だけだ。ジョフロワは拷問によって既に息絶え、明日は廃人となった団員が身代わりに火刑台に上がる。そして、呪われるべき教皇は暖かいベッドの中で安らかな寝息を立てていることだろうよっ!!…どうだ、これで満足したか?ついでに教えておいてやる。テンプル騎士団の特権を剥奪したのは教皇クレメンスだが、それを指示したのは国王フィリップだ。奴は傾いた国の財政を立て直す為にユダヤ人達の財産を没収して追放した。それと同様にテンプル騎士団にあらぬ罪を着せ、その財産を手に入れたのだ。お前は私を悪魔と呼ぶが、一体どちらがその名に相応しいかね?…ともあれ、これ以上はお前と付き合う気はない。くだらぬ自尊心でみすみす復讐のチャンスを逃し、そして自分の運命を女々しく嘆くお前には、濡れ衣で上がる火刑台がお似合いだ」
 私はマグナスの言葉に衝撃を受け、打ちひしがれた。罪を認めた者は少なくとも無事であろうと、ジョフロワは私同様まだ生きているだろうと思っていたからだ。それは、少なくとも無実の罪で投獄した者に対する、せめてもの良心が存在するだろうと考えていたからだ。しかし、実際には団員達は殆ど非業の死を遂げ、あろうことか死んだジョフロワの代わりに別の人間を処刑するのだという。これではマグナスの言うとおり、どちらが悪魔なのかまるで分からない。私に力さえあれば、今すぐにでも牢を破り、愚劣な二匹の豚を引き裂いてやるのに…。
「私を助けると言ったなマグナス!私に力をくれると言ったなマグナス!私を助けろマグナス!!私に復讐する力を、悪魔の力をくれっ!マグナスゥウッ!!!」
 私は慟哭と共にマグナスに懇願していた。その時、私の頭の中は真っ白で、簡単な図式があっただけであった。即ち、酷い目に遭ったのは誰で、遭わせたのは誰かという、極めて明瞭な図式。マグナスは私の申し入れを快諾すると、屈み込み、私の手首を噛み裂いた。私は慌てて手を引こうとしたがマグナスの怪力はそれを許さず、マグナスは私の血を啜った。私の身体からは次第に血が抜かれ、体温が急激に奪われていく。そして、意識が朦朧とし始めた時、空気を求めて喘ぐ私の口に、熱い何かが流れ込んできた。熱さと痛みを伴うそれはマグナスの血であった。マグナスは自分の手首を切って私の口元へとその血を流し込んでいたのだ。それと共に、力を失っていた私の心臓が再び活力を取り戻し始めた。マグナスの血が起爆剤になったかのように心臓は激しく暴れた。自分の鼓動の音がマグナスの鼓動と重なり、まるで大きな太鼓の音のように響き、頭の中で鳴り渡った。そして、それは鼓膜を破らんばかりに大きくなっていく。やがてそれに耐えられなくなった時、不覚にも私は意識を失ってしまった。
 気付いたときには私は立派な部屋にいて、柔らかなベッドの中で眠っていた。足首に鎖は無く、傷もすっかり癒えていた。しばらくの間は何があったのか思い出せなかったが、落ち着いてくると色々な事を思い出し、この見慣れぬ屋敷がマグナスのものであろうと察しはついた。それにしても、あのおぞましい化け物が、この様に立派な屋敷に住んでいることには驚いた。調度品はどれも豪華ではあったが嫌味が無く、その中でも私の目を引いたのが壁に掛けられた聖母子像であった。それは悪魔の屋敷にはおよそそぐわない清浄な物で、無垢な赤子とそれを慈しむ母親の柔らかな眼差しは心の波を静めてくれるようであった。そして、しばらく私はその絵に見入っていたのだが、不意に狼の遠吠えが耳についてはっと振り返った。そこに立っていたのはマグナスであった。
「聞きたまえ、夜の子供達だ…」
 マグナスはそう言って私に近づくと、近くにあった椅子を引き寄せてそれに座った。少し驚いたのは、マグナスの顔がこれまでと違って見えることだった。これまではぼんやりとした光に包まれ判然としなかった顔が、今は精悍な男の顔に見える。顔の造作はこれまでと変わらないし、青白い顔はそのままなのだが、印象がまるで違うのだ。恐らく、それは彼と同族になった証拠なのだろう。


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