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歪曲した円の底
【大人 恋愛小説】

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-1

「添島さん」
 めずらしく在室している部長が彼女を呼びつけて何か頼み事をしている。彼女は上司から書類を手渡されると、カツカツとこちらへ歩いて来た。出口に近い黒谷君と私の後ろを通り、ドアを開ける。廊下からびゅっと冷たい風が流入する。もう十一月だ。彼女は薄いブラウス一枚にスカートで、目に見えて寒そうに思えた。
「添島さん」
 私は彼女を呼び止め、背凭れにかけておいたカーディガンを、振り向いた彼女にずいと差し出した。
「寒いからどうぞ」
 そう言うと彼女は化け物でも観るような目つきで私をじっと見た後、「ありがと。ちょっと借りる」と言ってそれをひっかけて出て行った。

「松下さん、ありがと」
 添島さんはその場でカーディガンを脱ぎ、私に手渡した。その顔には、珍しく温度のある笑みが浮かんでいて驚く。 「あ、うん」と受け取り、そのまま背凭れに掛けた。
「あんな事されたかもしれないのに、楓ちゃん、優しいんだね」
 また横から、黒谷君が話し掛けてきた。
「添島さんが犯人って決まった訳じゃないし、寒そうだったから」
 黒谷君は「ふーん」と言いながらディスプレイに向かう。彼の大きな瞳に、ディスプレイの光りは黄緑色を反射していた。



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