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朝日に落ちる箒星
【大人 恋愛小説】

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28.久野智樹-2

 シャワーを浴びた後もお互い、革のブレスレットを腕につけたままだった。
「今日は付けて寝ようよ」と言い出したのは君枝だった。反対する理由もないし、むしろ嬉しい訳で、俺は例のデレ顔で「別にいいけど」と上ずる声を抑えるのに必死だった。
 歯を磨きながら、洗面台に置いてある黄色い柄の歯ブラシをじっと見る。これは君枝の歯ブラシだ。これが俺の家にあるという事が奇跡だ。俺の家で君枝が歯を磨く事が奇跡だ。君枝の日常生活が俺の家で行われる事が奇跡だ。またもやニヤリとした口の端から、歯磨き粉と涎がずずっと垂れてしまい、急いでタオルで拭う。
 枕が二つ置かれた、ひと組の布団に、君枝が既に入っていた。俺はエアコンの電源を切って、部屋が冷える前にと布団に潜りこみ、電気を消した。君枝の方を向くと、彼女も俺の方を向いた。外から漏れる光で、彼女の顔が蒼く映る。
「ねぇ、試してみちゃ、ダメかなぁ。途中でだめになるかも知れないけど」
 君枝の方からそんな事を言うとは思わなかった俺は、君枝の頬に触れて、キスをした。
 もともと馬力の無いエアコンだから、すぐに部屋は冷たい空気に支配され、君枝の服を全て脱がすのを躊躇ったが、再度エアコンのスイッチを入れて彼女の部屋着を脱がせる事にした。まるで俺を暖めるためにそこにいるように、君枝の身体は暖かくて、俺は身体を重ねた。君枝の顔の横に腕をつくと、彼女は俺の手の横に腕を置き、ブレスレットが並列に並ぶ。それがまた愛おしくて、何度もキスをする。
 前と同じように、少しずつ少しずつ、愛撫をする。乱暴にしない様に気を付けて、気を遣っている割には俺はきちんと興奮し、やっぱり男なんだなと実感する。ふと、星野の事が頭をよぎったが、振り払った。
 彼女の下半身をまさぐっても、顔を顰めこそすれど、それほど嫌悪感は無いらしい。彼女を襲った男はきっと、こういう下準備なしに挿入していたんだろう。腰をひくつかせる彼女の顔を見ると、蒼い光を受けて潤んだ瞳で「入れてみて」という。
 きちんと準備が整ったらしい彼女のそこに、俺のモノを押し当てる。彼女の表情を伺うけれど、まだ表情は変わっていなかった。そのまま押し進め、奥まで挿入すると、少し顔を歪め、俺はそのまま止まった。
「大丈夫か?」
「大丈夫、だと思う」
 まるで五十メートル走でも走ってきた後の様に、息も絶え絶えな返答に不安を感じつつも、俺は少し腰を引いた。彼女の中は暖かくて、少しきつくて、心地よかった。
「ちょ、ちょっとやっぱダメかも」
 俺は急いで引き抜き、君枝を見たけれど、すぐにトイレに吐きに行く、という感じではなさそうだった。
「気持ち悪くない?」
 蒼っぽい光のせいで、顔色がよく分からない俺は、眼鏡を外した彼女の顔をまじまじと見た。
「一瞬、思い出しちゃって。ごめん。下着だけ、つけてもいい?智樹も、できれば」
 あぁ、と言って俺はとりあえず枕元に準備してあったティッシュでモノを拭って、「落ち着け、俺」と念じる。そしてボクサーパンツを履いて布団に戻った。
「ごめん、ね。何かうまくいかなくて」
 天井に向けて言葉を吐く君枝の額に手をやり、前髪をかき上げる。
「いいんだよ、少し進んだよ、前よりもかなり。少しずつ、な」
 そう言うと彼女はこちらを見て、自信なさ気な笑顔を向けた。
「裸でこうして同じ布団に寝てるってだけだって、君枝にとっては大きな進歩だろ。まぁ、俺はただ嬉しいだけなんだけど」
 尻すぼみになった言葉に君枝はクスっと笑って「ありがと」と吹いたら飛びそうなか細い声で言う。君枝の手を握ると、俺と君枝のブレスレットがこすれ合った。彼女の冷たい指先を暖めるように、俺は両手で手を握り、眠りに就いた。


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