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満月綺想曲・番外 クリームとラズベリーのケーキより甘い……
【ファンタジー 恋愛小説】

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甘い宣言-1

 ヘルマンがフロッケンベルクに帰った頃は、この北国もようやく初夏の兆しを迎えていた。

「……そんな事がございましたか」

 通りを散歩しながら、サーフィはヘルマンから珍事件を聞く。
 本当なら、サーフィも一緒についていって、ラヴィに直接会いたかったが、冬の季節に雪深い森を越えられるのは、人狼かヘルマンのような氷の魔人くらいだ。

「そういえば僕たちは、新婚旅行にまだ行っていませんね。そろそろ雪も解けましたし……イスパニラの王都にでもいきましょうか?」
「ええ!」
「ところで、サーフィには贔屓の役者はいないのですか?」

 通り沿いに並ぶ劇場の看板を眺め、ヘルマンがふいに尋ねた。
 フロッケンベルクの王都にも、多数の劇場がある。
 この国は冬が長いため、こういった室内娯楽が盛んなのだ。

「そうですね。特には……」

 その時、後から甲高い歓声の声があがった。
 どうやら人気役者が通りに出て、サインを配っているらしい。

「オダリスさぁん!!サインくださぁ〜い!」
「え!?」

 風のような素早さで振り返ったサーフィの後ろで、ぼそっとヘルマンが呟いた。

「あー。目の色が変わっておりますよ。サーフィ」
「っ!い、いえっ、別に私は……っ」
「サイン、貰って来たらどうですか?」

 ヘルマンはニヤニヤと人の悪い笑みを浮べ、女性たちの歓声に応えて手を振っている細身の役者に視線を向けた。
 灰色の髪で、青い目をした秀麗な顔立ちの青年は、どことなくヘルマンに雰囲気が似ている。

「僕は別に、気にしませんよ」

 そして、ついとサーフィを抱き寄せ、周囲の客や役者に見せ付けるような、情熱的な口づけを与えた。

「ん!?んんぅっ!?」

 サーフィの足元がフラつきはじめる頃、ようやくヘルマンは唇を離した。
 口端をペロりと淫靡に舐め、ニヤリと笑う。

「君にこういう事をするのは僕だけですから、それで十分です」

 
 終


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