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ユートピア〈待ちわびた世界〉
【サイコ その他小説】

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ユートピア〈待ちわびた世界〉-3

PM十時三十分

息を潜めている。四階B棟視聴覚室の机の下。ひとり、生きを潜めている。既に二人。少なくとも、二人が犠牲になった。少し落ち着いて考えてみよう。学校は、渡り廊下を挟んでA棟、B棟に分かれている。A棟の三階には二年の教室。四階には三年の教室が存在。
今、俺が隠れているB棟には、三階に美術室と音楽室。四階には視聴覚室と物理実験室がある。下へと繋がる階段は計四ヶ所。それぞれの棟に二ヶ所ずつ。おそらく全て塞がれているだろう。どうにかして外界に出る手段は無いか。いや、出なくてもいい。コンタクトをとることが出来れば。携帯電話は、斉藤に貸したまま。考えを巡らせていると、思考は冷静になってきた。
「おかしいな。」
もう事件発生から既に三十分。誰かは外と連絡をとっているはず。家が近ければ、もう助けが到着してもいい頃だろう。いや、そもそも携帯を渡した後にタイミング悪く事件が起こるのだろうか。
――― 斉藤は怪しいのではないか?
いやいや、それは早計だろう。携帯を渡しただけだ。斉藤がこんなことをする理由が無い。
「理由だ?」
思わず自嘲する。二十人強を殺して回るのに、どんな理由があるというのか。犯人は、とうに狂っているに違いない。
キーンコーンカーンコーン
『皆様、ご機嫌いかがでしょうか。』
そう、奴はもう正気では無い。だから愉快そうに口を開く。
『五人、始末しました。』
ドクリ、と心臓が波を打つ。もう五人。
『逃げても無駄ですよ。助けを呼んでも無駄です。貴方達は、もう外には出られない。』
高鳴る鼓動。それを静めようと胸を抑える。その手は、汗で濡れていた。だから俺の口元は緩む。
『さぁ、再開です。早く卒業してください。』
窓の外を見遣る。決して戻ることの出来ない世界が、そこにある。だからいつもより多く、星空は俺たちに何かを語りかけているのだろう。この窓の一枚が、世界を二分している。どちらか一方を選べと言われたら、俺は。
何かを否定するように、ゆっくりと目を閉じた。

PM十時四十分

放送を聞いた俺は、視聴覚室を出た。このままでは埒があかない。誰かに会って外界との連絡を取らなければ。
「ぎゃああああ!!」
四階のA棟から木霊する悲鳴。俺は咄嗟に三階へと下りる。また誰かがやられた。三階に着くと、渡り廊下に人影が見えた。音を潜め、忍び足で向かうと、それは斉藤だった。
「おい、斉藤。」
「っ!!」
静かに声を掛けると、斉藤はびくりと振り返った。わなわなと震え、後ずさりする。
「どうしたんだ、間宮だよ。」
「い・・いやぁ・・」
よく見ると、顔には赤い液体がこびりついている。
「もう・・いやぁ・・」
かなり錯乱しているようだ。言葉にならない声を発して。
「落ち着けって、なぁ。」
なおも後ずさりを止めない斉藤。何か危ういものが、彼女を包んでいる。
カツーン
   カツーン
階段を下りる不穏なその音は、死刑執行の予告。
「いやぁあああああぁぁあああ!!」
ガシャーン
それを聞いた斉藤は、窓をぶち破って外に飛び出した。ここは三階。そこには救いなど無い。あるのは漆黒の闇と走馬灯を受け入れるだけの、わずかな時間。俺は手を伸ばす。届くわけがない。たとえ届いたとしても、次の瞬間に襲い来る死神が、俺らを殺すだろう。ならば、自らの意思による飛び降りは、最も潔い在り方なのかもしれない。たとえそれが正気では無いにしても。

PM十時四十五分

ガシャーン
斉藤が壊したガラスの音を、死神は聞いた。その音の方へ、ゆっくりと向かう。そう、勤めてゆっくりと。ゲームは、まだ終わらない。愉快な、愉快な悦楽ゲーム。標的の姿が見える。
間宮俊也 ――― いつも冷静沈着な男。隙の無い日常での生活。ならば、非日常ではどうか?その化けの皮を、剥がしてやろう。さぁ、素顔を見せろ。
カツーン
わざと足音を響かせて、死神はその男を追う。間宮は斉藤が飛び出した窓の傍で、何かを手にした後、私の姿を黙認する。そして逃げる。面白い。あの間宮が、怖れをなして逃げている。高校三年間で初めて見る構図だ。
割れた窓ガラスを見る。斉藤は、その役目を終えた。ならば間宮、次はお前の番だ。
手には月光に反射する刃物。不自然なまでに赤く濡れたそれをかざして、死神は間宮を追った。


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