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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第2話-7

彼は、覚えているだろうか。
あの時から、決心は変わらなかった。
このまま、圭輔に抱かれたい。
どうなるのかわからない。
……どうなっても構わない。
英里は心からそう思った。
「あの、先生…お風呂、借りても良いですか?」
「…あぁ」
英里は、一人浴室へと向かって行った。
英里の姿がこの場から完全になくなった後、圭輔は大きな溜息を吐いて、机に突っ伏した。
「あー、マズイな…」
あんな顔をされて、また口付けを交わしてしまえば、自制できる自信がない。
英里は、恋人だが、自分の生徒でもあるんだ…。
そう必死に自分に言い聞かせても、体はそれを裏切って、とても熱い。
己の欲望に素直に従ってしまってもいいのだろうか…。
だめだ、これからの学校生活が気まずくなるかもしれない…。
彼の中で葛藤が続く。シャワーの水音が浴室から響き始めると、ますます彼の胸を掻き乱した。
湯上りの彼女の、淡く染まった肌。背が高く、すらりとして張りのあるしなやかな肢体。女性らしい、柔らかな感触。そんな様子を想像してしまう。
英里はきっと、そのつもりなんだろう。自分だけが心が定まらない。
(どうするんだよ…)
圭輔は固い表情で、口元に手を当てた。

―――顔からシャワーに当たっていた英里は、思い悩んでいた。
さっきは、明らかに圭輔に避けられた。
彼はやはり、自分と関係を持つ事に躊躇っている。
教師と生徒という関係に、モラルに縛られている限り、結ばれることはないのかもしれない…。


「…先生」
圭輔が振り向くと、浴室から出てきた英里が、バスタオル1枚巻いただけの姿で佇んでいた。
腰のあたりまで届く、長く艶やかな髪から少量の水滴が滴っている。
「私が生徒だってことが気になるなら…今だけ、私を生徒だと思わないで下さい」
透き通った英里の声を聞くだけで、圭輔は全身の血が滾るような錯覚を覚えた。
「無理、しなくていいから…」
掠れた声で何とか声を発した。心臓が苦しい程鳴り響いている。
無理をしているのは自分だ。英里の目を見て話もできない。
本能を雁字搦めにしている、理性という名の鎖。
彼女の瞳を見れば、それはきっとあっさり外されてしまう。
「無理なんて、してないです。先生ともっと近くなりたいから…」
一歩一歩、英里は圭輔の側へと歩み寄る。
眼鏡を外した英里の瞳が、圭輔を真っ直ぐ見据えていた。
普段、彼女の美しさを隠している翳りは一切なく、曇りのない瞳で、彼を見つめる。
つと視線を逸らす圭輔に、英里は淋しそうに目を伏せた。
「……私、やっぱり魅力、ないですか…?」
ぽつりと、彼の耳に聞こえるか聞こえないか位の声で彼女が漏らした、その一言。
圭輔はぐっと胸の奥を掴まれたような心地がした。頬がかっと熱くなる。
(反則だろ、それ…)
完全に、やられた。
もう、いつまでもいろいろと考えるのも、自分の欲望や、彼女の決意から目を背けるのもやめた。
英里は、自分の愛しい彼女だ。
惹かれあう二人の間に、不自然なことなどきっと何もないのだから。
そう決心すると、無言で圭輔は立ち上がる。
立ち尽くしたままの英里の頭を優しく撫でて、圭輔は照れたように微笑んだ。
女性にしてはかなり背が高めの英里の、さらに上から声が掛かる。
「髪、ちゃんと乾かしとけよ。俺も今からシャワー浴びてくるから…」
「はっ、はい…」
英里は硬直して、棒立ちになってしまう。
圭輔の姿が浴室に消えてから、英里はその場にへたりこんだ。なけなしの勇気を振り絞った反動で、一気に全身の力が抜けてしまった。
ついに、この時が来たのだ。
いざそうなると落ち着かず、再び眼鏡を掛けて、意味もなくテレビのバラエティー番組を見ていると、ふと、タオル1枚の姿でソファに腰掛けている自分が何だかいやらしく感じた。
せめて下着だけでも着けようかと悩んでいるうちに、湯上りの圭輔が英里の前に現れる。
彼も、下着1枚という格好で出てきた。
初めて、彼の裸を見た英里は、頬の火照りを感じた。あの時、倒れかけた自分を支えてくれた腕、抱き締めた時の力強い胸板。とても直視できなかった。胸の奥が期待と不安に疼く。
「髪乾かしとけって言ったのに…」
「あっ、ごめんなさい、忘れてました」
英里は慌てて、彼が手にしていたドライヤーを受け取ろうとすると、
「俺がやってやろうか?」
「…いいんですか?」
「あぁ」
英里は彼の言葉に甘えることにして、圭輔に背を向けて腰掛ける。
これだけ髪が長いと、乾かすのも一苦労なのだ。
「本当に長いな」
「暑苦しいですか?」
「…いや、俺は長い髪好きだから」
圭輔の長い指が、英里の髪を梳いてゆく。
彼の手の感触が心地よかった。
さっきまでの緊張もだんだんと解れていく。
ある程度乾いたところで、圭輔は、英里の髪を一房手にして、軽く口付けた。
「……英里」
耳元で、圭輔の声が響く。英里はぴくっと肩を震わせた。
圭輔から名前で呼ばれたのは初めてだった。
「あっ…わ、私、ドライヤー片付けてきますね!」
そそくさと英里は洗面所へ向かう。少し、わざとらしかったかもしれない。
鏡の中の自分の姿を見つめ、もう一度心臓を落ち着けようとする。
鼓動は、今までで一番高らかに鳴り響いている。
再び圭輔の元へ戻ると、ソファに座ったままの彼が、静かに彼女を見つめている。
普段の穏やかな眼差しではなく、英里にはあまり見せない面だ。
いつも優しい彼が、何だか別人のように、纏う雰囲気が違う。
封じ込めていた熱情を解き放った彼は、もう遠慮するつもりはなかった。
欲望を抑えつけて、必死に戒めていても、本当は、彼女が欲しくてたまらなかったのだから。
「英里、おいで」


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