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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 2-7

※※※


 神事本番を明後日に控え、宮の内は慌ただしくなっていた。
 祭事自体の準備に加え、近隣からの賓客を迎え入れ、一般の参拝客を本殿の敷地から締め出さなければならない。
 この期間、一般参拝は結界のすぐ内側にあるいくつかの社までしか受け付けないのだ。
 結界の端は山一つも向こうにあたるので、本殿周辺は関係者以外の人の気配が絶えていた。
 ただ、参拝客用の宿舎は静かなものだが、前述の通り、やはり関係者はてんてこ舞いの様子である。
 本殿と点在する周辺の社の間をせわしなく行き来する神官たちの姿が、高い階段の上にある奥の院からは蟻の這いずるようにも見えた。

 ハヅルは奥の院の鳥居にのぼってくつろいでいた。
 奥の院の開帳は今年は行われないので、ここだけは本来の静けさを保っている。たまに神官見習いが清掃に来る程度だ。
 宮の司もハヅルに構う暇もないようで、むやみに注意をしなくなった。
 もっとも、そもそも鳥居に上ったのを咎められたのは納得がいかない、とハヅルは思っていた。
 この国特有の建築に『鳥居』などと名付けられているからには、それはツミの居場所として作られているに違いないのだ。
 またその名の通り、この建築は妙に居心地が良い。
 アハトも同じように感じているようで、暇な時間がかち合うと、よく席の取り合いになる。

 ハヅルは寝転がって空を見上げた。
 神殿は山岳地の高原にあり、ぽっかりとひらけた平野に社がいくつも点在している。
 その周辺は森が深く、赤みを帯びはじめた空は晴れて高かった。変化して飛び回れたら、きっと、とても気持ちが良いだろう……

「……?」

 ふいに不穏なざわめきが耳に入って、ハヅルはうとうとしかけた目をぱちりと開いた。
 体を起こし、本殿のある下界を見下ろす。
 広場にはいつしか人だかりができていた。
 神官装束ではない。見習いや使用人、衛士や王女の親衛隊とも違う。

「参拝者が戻ってきた……?」

 一般参拝客たちは暗くなる前に最寄りの宿場町に着くようにと、昼過ぎには宿舎を発ったはずだ。もう日暮れが近い。
 徒歩での参拝客が神域を出るまで、山を一つ越えるのに三時間ほどかかるが、ほぼ結界の端まで行って引き返してきたということだろうか。
 成り行きを見守るうちに、高位の神官があわてたふうに出てきて彼らと何かを話し、数人を本殿に引き連れて行った。

 何か異変があったのは明らかだった。

 ハヅルは参拝者たちの引き返してきた方角、参道の続く森の向こうを見つめた。
 ツミの視力をもってしても、樹海の影に消える道を見透かすことはできない。

 だがほんの一瞬、視線を動かす刹那に、視界の隅でチカリと何かが光った気がした。

「……」

 ハヅルは眉をひそめて鳥居から飛び降りた。


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