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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 2-1

 王子は参拝に際して、驚いたことに親衛隊や侍従の一人も連れていなかった。
 エイと、アハトを加えた三人きりでの訪問である。

 だが、あきれるハヅルや宮の神官たちに対して、妹である王女は平然と兄を出迎えた。
 この王子にはよくあることなのだ。
 両親である国王夫妻も、アハトが彼の守護に付いてからは、無断外出癖をあまり咎めなくなった。もはやあきらめの境地なのだろう。

 並んで笑いあっていると、兄妹はよく似ていた。肌は王子の方が日に焼けているが、髪と目の色はぴったり同じだ。
 むろん男女の違いはあり、王女はより繊細で王子は精悍な顔立ちではあるものの、目鼻の形や配置には血の近さを疑いようのない相似があった。

「こちらで兄上とご一緒できるとは思いませんでしたわ」

 世継ぎの王子への形式的な挨拶を終えると、彼女は一変して家族らしい親しげな声音になった。

「エイ殿も。よくいらっしゃいました」

 同じ調子で、王女はにっこりとエイに笑いかけた。
 親しく話しかけられ、エイは顔を赤くして、どもりながら彼女に挨拶を返した。

「あ、はい…王女様」

 緊張のあまりか、やや挙動不審になっている灰色の髪の親友を、王子がおかしそうに眺めていた。

「お前、妹の前ではどうしてそう緊張するんだ。俺相手には全然なのに」

「あなたとは違いますよ……」

「緊張なさらなくてよろしいのに。わたくし、そんなに恐ろしく見えまして?」

 冗談めかした王女の言葉に、エイは慌ててかぶりを振った。

「恐ろしいなんて、とんでもない。ただ、」

「ただ?」

「その、高貴な方にお会いするのに慣れていないので、」

「おい、どういう意味だ。俺は違うっていうのか?」

「えっ……」

 聞き咎めた王子が口を挟む。エイは目を瞠って口ごもった。

 王女の肩越しに様子をうかがっていたハヅルは、先日エイに抱いた疑念が正しかったと改めて確信していた。
 どこか超然として見える白に近い灰色の両眼と、冷たく整った容姿のせいで、口数の少なさや反応の乏しさが冷静さと深慮ゆえに映る。
 だがその実は口下手で上がり症の少年だった。
 いちいち他人の言葉への対応に苦慮している様子が見てとれるのだ。
 決して不快そうではない。困っている、というのが正しい。不器用なのだ。

 敏い王女にも、もちろんそれはわかっているのだろう。彼女は楽しそうだった。

 ハヅルは少し意外に思った。
 王女は、王子のように面には出さないものの、他者に対する鎧は彼以上に強固と言ってよかった。
 それが、王子と一緒になってくつろいだ様子でエイをからかっている。
 つまり、王女はエイを気に入っているのだ。
 兄妹はひとしきりエイの反応を楽しんでから、宮の司に奥へと案内されていった。



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