投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

殺害予定
【サイコ その他小説】

殺害予定の最初へ 殺害予定 0 殺害予定 2 殺害予定の最後へ

殺害予定-1

 日が地平線の彼方に沈み、これから闇は少しずつこの部屋を侵食していく。
 僕は部屋のなかで一人怯えていた。部屋に闇が訪れると、あいつが現れる。
 いや、もしかしたらあいつが来るから、闇が訪れるのかも知れない。
 でも、もうどっちだってかまわない。
 今日こそ僕は、あいつを‥‥殺す。
 僕が、いつもどんなに傷ついても、笑っていた。
 笑うのが役目のように、ただずっと笑っていた。
 心がズタズタに切り裂かれた時も、それ以外の表情が存在しないかのように笑みを浮かべていた。
 その顔が大嫌いだった。
 でもそれも今日で最後にしてみせる。
 窓の外を見ると、空はいつのまにか完全に闇が支配していた。
 あいつはいつも、いつの間にかいる。
 そして今日も。やはり顔は笑顔だ。
 あいつの笑顔は嫌な記憶としか結び付かない。
 もうこれ以上は我慢できない。
 用意してあったナイフを、震える右手で掴む。それでもあいつは笑ったまま。
 そして振りかざしたそれを、一気に振り下ろした。
 手が赤く染まる。いや、世界のすべてが赤く染まっていった。
 赤く、赤く‥‥

 …気が付いたらベッドで寝ていた。だけど、ここがどこかはわからなかった。
 そのとき部屋の戸が開いて誰かが入ってきた。母さんと看護婦だった。どうやら病院らしい。
 母さんは、涙を流しながら何か話し掛けてきたが、知らない国の言葉のようだった。
 あれは夢だったのだろうか…
 そんなとき、またあいつが現れた。母さんはあいつと話はじめる。あいつは笑ってそれを聞いる。
 そんな予感はしていた。やっぱり、あいつを殺せなかった。

 わかっていた。あいつは僕だから。
 嫌な事を僕に押しつけて、ただ笑ってまわりに流されるだけのもう一人の僕。
 夜、独りになるたびに、それを思い出してきた。

 …しばらくして、話が終わったらしく、看護婦も母さんも帰って、病室には僕だけになった。
 結局、またあいつが笑い続けている。
 辛いことを押し込めて、何事もなかったかのように。

 …その時、枕元にリンゴとくだものナイフを見つけた。
 僕は一瞬迷ったが、それに向けて手を伸ばす。
 ‥‥今度こそ、今度こそ‥‥


殺害予定の最初へ 殺害予定 0 殺害予定 2 殺害予定の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前