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美しい蝶
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美しい蝶-1

ひら、ひら、ひら。

まるで、蝶のようだ。
可憐で、儚くて、脆くて。
きっと君は、例えば俺に握り潰されても、何も鳴かずに死ぬんだろう。何を嘆く事も無く。
蝶のように。

「…蝶だ」
君が指差したのは1匹の揚羽蝶。それは今にも地面に落ちそうな危なっかしい飛び方をしていた。
「……蝶って、何かに似てる気がする」
何か?
「うん。…そう思わない?」
君は君の白く細い指を蝶の前に差し出した。蝶は、それに止まる事は無く、更に飛び続けた。
君は、その蝶の中に君自身を見ているんだろう?
蝶は、君に似ているよ。

「…分かった」
何が?
「何に似てるか。蝶が」
柵の向こうで君は言う。危なっかしい足取りで、柵に沿って歩き続ける。
「…お前だ」
俺?
「うん。例えば…蝶が、どことなく狂気じみてるのと同じように、」
お前も狂気じみているんだ。
君は柵越しに俺の目を見つめながら言った。
「蝶のように、お前は」
お前は…?
「お前は、どこかオカシイ」

分かっ、てる、よ。

飛べ。
飛ぶんだ。
…蝶のように。
さあ!

ひら、ひら、ひら。
蝶のように、落ちていく。
落ちていく君と、堕ちていく俺。
グシャ、と蝶が死んだ音がした。俺が、握り潰した。蝶を。…君を。
俺が愛した、蝶。

蝶のように。
蝶の、ように。


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