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若き富田林亀太郎の青春
【コメディ その他小説】

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富田林氏、塀の中で過去を語る-3

「あ〜!くっそ〜、また奥やんけ」

パチンコ台の真ん中でくるくる回る玉は、無情にも三つある穴の中で奥の穴に消えて行きよった。

この台の名は『ミサイルポピー』。運良く狭い釘の間を通り抜けた玉は、台の中央のイベントスペースに入ると、通り抜けた勢いのまま三つの穴の周りでクルクルと回転する。その玉が三つの穴のどこに落ちるかによって天と地の差が有るんや。

手前の穴に落ちると打ち止め終了までチューリップが開きっぱなしの天国モード。奥の2か所に落ちると全く何にもなし。まさしく天国と地獄やな。

玉の勢いが無くなり穴に落ちるまでの10数秒間は、得も知れないワクワク感を味わえるのんが魅力の人気台や。せっかく通り抜けた球が奥に落ちた場合のガックリ感。悔しくてこのまま終われるワケないやないか感。手前に入った時の絶頂感。端的に言うと射幸心バリバリに煽る悪魔の台やな。

くっそ〜!手前に落ちたら一発終了の1万2千円やったのに…

「おっ、亀やん、なに辛気臭い顔してんねん!」

人が悔しい思いをしてる時に、後ろから声をかけて来たのは中学時代の同級生の岸和田や。今の時間に現れるこいつもプー太郎仲間や。

「朝からクルクルに7回も入ってるのに外ればかりや」

オレは朝からの苦難をぼやいた。

「うっわ、かわいそ!相変わらず運の無いやっちゃなあ」

岸和田は人の不幸を喜びながらオレの横に座りやがった。鬱陶しいやっちゃけど、ちょうどええわ。

「アホ、今日だけや!なあ岸和田、そんなんどうでもええけど、ちょっと金貸してくれ」

「貸しても返ってけえへんやんけ」

「10分後に1万2千円になるからそれで返したる」

「見えます、見えます。貸した金は10分後に確実に無くなってます」

「お前は預言者か」

「アホ!そんなん誰かて解るわ!亀やんの運の無さは皆知ってるわ。オレが預言者やったら日本中預言者だらけじゃ」

「うるさいわい!」

「おっ!入りよった♪」

「なんやて!イキナリかい!」

驚いたオレが岸和田の台を覗くと、パチンコ玉がイベントスペースでクルクル回っていた。このガキはいつもこうや。

「手前にコイ!手前にコイ!手前にコイ!」

奥にイケ!奥にイケ!奥にイケ!

「きたー!100円投資で、いっちゃんにせんえんや〜!」

くっそ〜、なんちゅうラッキーなガキなんじゃ!今日はこいつにタカリまくったる!

「お前、人の横で運を吸い取りやがって、飯くらいおごれよ」

「わかってるわかってる。不幸なヤツに優しくしたったら徳が積めるんや。徳を積んだらもっともっと運が舞い込むがな。オレの運がエエのはお前の不幸のおかげやで♪」

「じゃかましいわい、何の宗教に被れとんねん」

「まあまあ落ち着け、オレ、パチンコしに来たんとちゃうねん、お前を探しに来たんや。これ出たら飯食いに行こ」

「へっ?何の用事なんや?」

「まあ、後で言うから待っとけ」

こいつはいつもこうや。しょうもないことも勿体ぶりよる。まあ、今日のところは奢ってもらうから我慢するか。しかし、この後のこいつから聞いた話は、思いもせえへんかった事やったんや。

「遠慮せんと食えよ、予定外の金が入ったからな」近くのファミリーレストランで岸和田のヤツ景気の良いことを言いよった。

「誰が遠慮するかい、このステーキセットにしよ♪」

「お前、それ3000円もするやんけ!こっちの800円ハンバーグセットにしとけ」

「セコ〜」

ホンマにセコいヤツやで。

「あっ、ねえちゃんねえちゃん注文や。この貧乏たらしいヤツにはこの800円のやつな、ホンでオレのんはこの3000円のステーキセット頼むわ」

岸和田がデカイ声を出してウエイトレスを呼び止めて注文しよった。

「お前、どんな神経しとんねん!」

「文無しが食えるだけマシやんけ」

「うるさいわ!で、なんやねん?オレを探してたて。そう言えばお前、1週間ほど顔見んかったな」

「まあ、それと関係あるんやけどな。お前、金無いやろ」

「見てのとおりや、ごっそさん」

「金欲しいやろ」

こいつ、また勿体ぶった言い方しよる。

「当たり前やんけ」





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