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深海の熱帯魚
【純愛 恋愛小説】

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.33 寿至-1

 二人で居酒屋に行こうなんて言うから俺は少し驚いた。
 結局、森先生と別れた拓美ちゃんは俺に全然なびかず、毎日俺の好き好き攻撃をかわしまくっていた。俺はこういう運命なんだと思っていた。
 今頃、智樹の家であの三人はどんな話をしているんだろう。
 サークルを結成して一年しか経っていないのに、実に色々あったなあと、感傷に浸っていると、目の前にいきなり焼酎のロックが出てきて驚いた。

「まぁ呑みなよ」
 ちょっとおっさん臭ただよう雰囲気の拓美ちゃんが、自分も焼酎ロックを頼んでグイっと呑むので、俺も負けじと呑む。
「結局あの三人は、どうなると思う?至君」
 俺と考えている事は同じだったようだ。気が合うな。
「そうだなぁ、塁と君枝ちゃんがくっつくんじゃないの?」
 塁は君枝ちゃんを「気になる存在」なんて言っていたけど、どう見たって「気になる」を越えている。
 それに君枝ちゃんにしたって、塁がサークルに来なくなった時、引き戻しに行った張本人だ。きっと惚れている筈だ。
「私は、意外と智樹君が頑張るんじゃないかなーなんて思ってるんだよね」
 確かに、智樹は君枝ちゃんにぞっこんだが、君枝ちゃんはどうなんだろうか。智樹と君枝ちゃんが絡むときは必ず塁がついている。二人がさしで絡む場面なんて見た事が無い。
「いや、絶対塁と君枝ちゃんだって」
「ちがうよ、大穴、智樹君だって」
 二人で、残る三人の恋路について熱く議論を戦わせた。
 結局、答えは出なかった。
「誰もくっつかないんじゃないの?」
 という拓美ちゃんの意見が最終的に採択された。

「俺と拓美ちゃんっていうのはどうなんだろうね、拓美ちゃん」
 俺はいつもの軽い調子で話題を振った。「はいはい」とか言いながらあしらわれるんだと思っていた。それがちょっと違ったので驚いた。
「あのさ、もうちょっと真面目に誘ってくれないかなぁ?」
 俺は笑っていた顔をそのまま強張らせた。どういう事だ。
「至君はさ、マフラー貰ってくれた時点で私の中では凄く大切な人になったのに、いつもへらへらとふざけてばっかりでさ、真面目に口説いてくれた事って一度も無いよね」
 その通りだったので、こくりと頷いた。まさかこんな展開になるとは予想だにしなかったので、俺は彼女を口説く練習もしていなかった。
 でもここで男を見せないと、彼女を取り逃がしてしまう。俺は頭をフル回転させた。
「あの、拓美ちゃんって凄く綺麗だから、初めはそこに惹かれたんだ。だけど、一緒にいるうちに綺麗なだけじゃなくて、結構話も合うし、酒が入ると意気投合するし、一緒にいるのが楽しい人だなって思ったんだ。これ、ほんとね」
 結局語尾がふざけてるので、彼女は俯いて笑っている。
「いや、ふざけてる訳じゃないんだ、俺のデフォルトがこんなんだからさ。何が言いたいかって言うと、やっぱり好きなんだよ。マフラー貰っても貰わなくても、森先生と付き合ってても付き合って無くても、ずっと好きだったんだよ」
 俺は一気に捲し立て、最後に一息吐いて、彼女を見ると「宜しい」と一言言われた。拓美ちゃんはSの化身か?
「私も至君と一緒にいて楽しいし、セコハンマフラーも貰ってもらえて嬉しかったし、もし至君が真面目に考えてるなら、お付き合いをしてみてもいいかなーとは思ってるけど。どう?」
 俺は目の前で話している言葉が異国語に聞こえてくる位、信じられず、耳の穴を一度ポンとほじくってみた。別に詰まり物はなさそうだ。
「それ、本気?」
「本気」
 目の前にある焼酎をぐいっと煽った。
「もう一杯下さい!縁起のいいやつ!」
 焼酎の銘柄なんてこれから覚えて行けばいいんだよ。縁起がいい名前の酒とかさ、きっとあるんだろうよ。
 こうやって拓美ちゃんと一緒に居酒屋に来て、メニュー見ながらあれやこれや考えて、その時々に合った焼酎を頼んで行けばいいじゃないか。


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