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神様の花畑
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神様の花畑-1

それは町を出てすぐの場所だった。
草原は花畑へと変わり、広大な大地全てが鮮やかな花で埋められていた。すぐそばには茎の緑も見えるが、数メートル先に目をやると花弁の色に視界を支配されてしまう。
それよりもまだ先の方に目をやれば遠くに見える山の緑と土の色が、花畑の小さな山頂の後ろに急に現れ、より一層花達を引き立てていた。

「これが、君のお勧めの場所?」

ため息をついたあとに、旅人は隣の少女に声をかけた。
少女は案内人として旅人に町を紹介している。勿論、無理矢理やらせてもらっているのである。
よほど珍しかったのだろう、旅人がいくら断っても譲らなかったのだ。
その少女が一番連れてきたかったという場所がこの花畑であった。

「ええ、綺麗な場所でしょう?」

誇らしげに旅人を見上げながら少女は頷いた。

「ああ、そうだね。確かに綺麗だ。こんなに沢山の花がある場所は初めてだ」
じっくり見回しながら、旅人は笑みを浮かべた。風が吹き、花が波のように揺れる。

「この場所はね、神様の花畑って呼ばれてるの。人が何もしないのに毎年季節ごとの花が勝手に咲くから、まるで神様がお世話をしているみたいだからって」

聞きかじった知識だったのだろう。話す少女の口調はたどたどしく、得た知識を吸収しきれていないようだった。

「そう。神様の花畑、ね。洒落た名前だ。」

ひとしきり見終わると、旅人は少女に笑いかけた。

「でしょう?ふふ、誰がいい始めたのかは知らないけど、悪くない名前だと思うわ」

旅人と少女は互いに笑みを交わして、しばらくそのばで佇むと、来た道を戻り始めた。
そして途中に通った草原まで来ると、旅人は足を止めた。

「どうしたの?」

少し行き過ぎた少女が旅人を振り返って見ると、旅人は緑一色に染まった草原を見渡していた。

「……いや、さっきの花畑よりも、こっちの方が似合ってると思ってね」

意味がわからずに見つめていると、しばらくたって旅人は続けた。

「神様の花畑って名前がだよ。」

少女は言われてもわからなかった。だから同じように草原を見渡してみたが、やはりわからなかった。

「ここは花畑じゃないよ?」

「うん。だけど、沢山の花より、一面に広がる草原の方が落ち着いた美しさがある。」

「でもこんな草原なんか、どこにでもあると思うわ」

草原に風が吹いた。
揺れる草が音を鳴らし、波のように風になびいていた。

「どこにでもあるから、見落としてしまうんだよ。良いものなんて、意外とどこにでもあるものだから」

二人はしばらく、あの花畑にいたときのように佇んでいた。
季節の香りを運ぶ風に吹かれながら。


〜End〜


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