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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 1-4


「『わが姫』だって? あいつもお調子者だな」

 あきれた声を上げたハヅルだったが、隣を歩くアハトは無反応だった。
 まだ手をつかまれたままだ。それを指摘してやる前に、彼女は幼なじみをのぞきこんだ。

「何を怒ってるんだ?」

「怒ってはいない」

 アハトの短い否定に、ハヅルは顔をしかめた。

「嘘つけ。私に隠しても無駄だって、わかってるだろう」

「……いいんだ。もう、怒っていない」

 立ち止まってわざわざハヅルに向き直った彼の顔からは、確かにもう苛立ちの色は消えていた。彼はつないでいた手をようやく放した。

「頭領は何の話だったんだ」

 アイサがいなくなって清々した、という気分を珍しく表情に出しながら、アハトは訊いた。
 あまり訊かれたくもない話だったが、隠してもすぐに知れることだ。ハヅルは仏頂面で白状した。

「先週の街でのことだ」

 アハトはそれだけで、全て察したように頷いた。

「ああ。災難だったな」

「……軽はずみだったと言われた」

 落ち込み気分がよみがえってきて、ハヅルの声が低くなる。

「悪い条件が重なったな。気に病んでも仕方ない」

 アハトは珍しく慰めるようなことを言った。

 変化したこと自体は、是非にも必要だったかと問われると、ハヅルは頷くことができない。
 なので、反省すべき点ではある。
 だが、自分の非を納得しきれない部分もあった。
 彼女は、あたりを見回して誰も聞いていないのを確認してから、ぼそりと吐き出した。

「白いのなんて、他にもいるのに……」

「それは頭領の前で言わないことだな。言い訳に聞こえる」

 ツミの一族は、人間態の見かけは皆一様に黒髪に黒い眼、白い肌という色彩をしているが、鳥態となると様々である。
 体色の白い者は、一族でもさほど珍しくはない。十羽いれば一羽は真っ白か、白の多い模様の羽毛を持っていた。
 特にシアの血脈に近い者の中に多く生まれる。

 むしろアハトのような黒一色の方が珍しいのだ。
 濃い茶色で黒っぽく見える羽根や模様の一部に黒を持つ者は多いが、アハトの鳥態はくちばしが少し褐色がかっている他は真っ黒だった。
 形はいたってスマートな猛禽そのもので、一族や人の基準でいっても姿のよい方なのだが、色だけ見ると、ほとんど鴉である。
 世継ぎの守護としては、どうせならば珍しい方が喜ばれそうなものだ。
 それは別としても、アハトは次期頭領に定められている。
 ツミの一族としては人の王にとって一番ふさわしい者を選んでいるつもりなのだ。
 なのに、たかだか羽毛の色で王位継承順が揺らぐなど、心外もいいところだった。

「千年の間に、世継ぎ以外に白いのが付いたことはいくらでもあっただろう。姫が双子でないか、王子があんなのでなければ問題にもならなかったんだろうがな」

 アハトの暴言に、ハヅルは再びあたりを見回してしまった。

「あんなのって、お前」

「突き詰めていけば問題の根は王子にあるんだ。あの王子が世継ぎとして相応に振る舞ってさえいれば、誰も姫に王位をなどと言わないんだからな」

 アハトは基本的に口数の少ない方なのだが、時折、特に自分の守護する王子を罵ることに関してはよく口が回る。
 また何か無理を言われたのだろうか、とハヅルはちらりとアハトの顔をうかがった。

「だから、お前はあまり気にするな、ハヅル」

 合わせた視線に、アハトの目がかすかに和んだ気がした。


※※※


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