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画面の中の恋人
【純愛 恋愛小説】

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画面の中の恋人-8

 その日の夜。誰かにいまの気持ちを聞いてほしくて、仲間同士で使っているチャットルームの画面を開いた。パスワードを入力すると、画面の中で自由に発言し合って会話ができる。

 すでに数人が入室して、ゲームの攻略法などについて会話が始まっていた。表示されている名前は、ハルカ、ミナミ、ヨシ、コウ。画面の上部に『ミコさんが入室しました』と赤字が表示されると、みんながミコに挨拶をする。

『ミコー! 久しぶり、待ってたよ^^』

『こんばんは! なかなか来れなかったもんね、元気?』

『こんばんはー。ミコ、例の彼とはどうなったの?』

『やっと来た! 今日こそは彼のこといっぱい聞かせてもらうからね』

 表示された発言に乃理子がひとつひとつ返事を打ち込み終わると、みんなの興味は『彼』のことに集中した。『彼』とはもちろん名無男のことである。

 乃理子はちょっと照れくさいような気持ちで、名無男とメッセージのやりとりを始めたことを伝えた。そして彼が既婚者であるということがわかり、ものすごくショックだったということも。

『ええ? なんでショックなの? ミコだって旦那さんいるのに』

『わたしはミコの気持ちわかるなあ。だって例え画面の中だけのことでもさ、好きな相手が結婚してるなんて、聞きたくないよ』

 好きな相手、と言われて顔が熱くなるのがわかった。ぼんやりとした気持ちはあっても、はっきりと言葉にされるとなんだか重みがある。

『へえ、もっと仲良くなりたいって言えたんだ! 前にも言ったけど、むこうもミコのこと絶対好きだと思うな。さっさと会っちゃえばいいのに』

 そう発言したミナミは、このサイトで知り合った男性と熱愛の真っ最中である。お互いの家までは新幹線で1時間ほどの距離らしく、月に1度か2度だけ会う大人の関係を満喫しているらしい。ミナミもお相手の男性も、お互いに既婚者だからこそ問題ないのだという。

『ミナミ、簡単にそんなこと言っちゃダメよ。ミコ、わかってると思うけど、こういう場所って危険なひともいっぱいいるんだから、余程のことが無い限りは会ったりしないほうがいいとわたしは思う。犯罪に巻き込まれる可能性だってあるじゃない』

 コウがたしなめるように言う。乃理子自身もどちらかといえば慎重派で、これまではずっと同じように思ってきた。でも、今はその気持ちがぐらついている。

『うーん、実際に会うかどうかは別にして、これからもっと仲良くなれる可能性はあるよね。いっぱいメッセのやり取りしてさ、ミコの気持ちが固まってきたら、それをぶつけてみればいいんじゃない? まだミコのほうも、なんとなく好きかな、くらいなんでしょ?』

 それはその通りだった。考えてみれば、まだお互いにものすごく気を張った言葉でのやりとりしかしていない。それをみんなに伝えると『まずは敬語をやめるところから始めてみたらどうか』と、それだけは全員の意見が一致した。

『ねえねえ、それよりミコは名無男さんのどんなところに惹かれたの?』

『あ、それわたしも気になってた。だってさ、あのひとが入れてるコメントって普通のことばっかりじゃない?』

『毎日なにかしらのコメントを入れてくれるってだけでも、半年も続けば嬉しいものじゃないの? それにここまでまったく下心も見えなかったわけだし。ミコもどっちかといえば純情だから、あんまりガツガツ来られなかったのが逆に良かったんじゃない?』

『えーっ、わたしだったらそんなの物足りないな。会いたい、エッチしたい、とか言われるほうが女として認められてる気がするもん』

 会いたい、エッチしたい、なんて……もし、名無男からそんなことを言われたら、そのときはどうするだろう。少し前までは迷う余地もなく断っていたはずなのに、考えてしまう自分がいる。ぼんやりしてキーボードを打つ指が止まってしまった乃理子をおいて、ほかのメンバーはお互いの恋愛観について熱い議論を始めてしまった。


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