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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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王国の鳥-11


 変化の際、彼女はいつも両翼を閉ざした無防備な姿勢のまま突然空中に投げ出される。
 くるくるともんどりをうちながらバランスを探り、タイミングをみはからってバサリと翼を広げた。
 空中で回転が止まり、彼女はそのまま力強く羽ばたいた。首をめぐらして自身の体を確認する。真っ白な両羽根、尾羽にも異常はない。
 急激に広がる視野の中心に、王女が手をさしのべている。ハヅルは急降下してその腕にとまった。

 エイが目を丸くしてその光景に見入っていた。

 彼が見たのは、不意にその場から幻のようにハヅルのかき消える瞬間と、突然上空に出現した、王女の細腕にとまる鳥……鋭く鉤状に曲がったくちばしと鉤爪を持つ、小さな白い猛禽の姿だった。


 ツミの一族の秘密とはこれだった。
 彼らは鳥に変化することができる。
 ロンダーン建国記にうたわれる、王家の祖を現在の国土へと導いた神の使い鳥の正体こそ、彼らツミの一族だった。
 むろん、単に変化するだけではない。

 力の強さや動きの素早さ、跳躍力や視力聴力が常の人間離れしていることももちろん、ツミの一族の大きな特徴ではある。
 だが人間態の彼らはそれほどすぐれた身体能力をもっていても、一個の人間でしかない。その手/武具の届く範囲にしかその力を及ぼすことはできない。

 しかし鳥態となれば事情は変わった。
 変化したときの彼らの力は人知を越える。

 魔法と呼ばれる限られた種族しか行使できない力がこの世には存在する。

 端的に言ってしまえば、『手を使わずにものに力を加える』力だ。
 手で触れずにものを動かし、砕き、ねじり、押しつぶす。
 あるいは手で触れられないもの、空気や熱、光や水のような流体に影響を及ぼす。

 肉体に依らないので筋力は関係なく、手指という形や二本の腕という数の限界もなく、視認できる限りにおいては距離も意味をなさない。

 ツミの使うのはその魔法の体裁を持ちながら、人の魔法使いには決してなし得ない何倍もの威力を誇る力だった。それも魔法に必要とされる呪具や呪文は一切要らない。
 鳥の姿をとることで、彼らはその力を自在に操れるようになる。

 ハヅルは王女の腕にとまったまま、ひと声鳴いた。
 鳴き声と同時に、王女とエイを中心とした円形に薄い光の膜が浮かび上がる。エイを狙って投げつけられた鉄針が、その膜にぶつかった瞬間、あらぬ方向へ弾け飛んだ。
 エイは慌てて避けようとしたのだが、王女は落ち着いたものだった。
 光の膜はハヅルの力でねじまげられた空気の壁だ。人の魔法ならば結界と呼ばれる術にあたる。
 ロンダーンの王家の者は、ツミの力について熟知しているのだ。
 彼女はハヅルを乗せた腕をかかげたまま歩を進めた。
 広場の中心に立つと、彼女は周囲を囲うように一斉に姿を現した襲撃者たちに向かって、唇に薄く笑みを浮かべてみせた。

「ハヅル、彼らを捕まえてちょうだい」

 王女の言葉に呼応して、鋭い銀笛の音のような、澄んだ鳴き声が通りに響き渡る。

 次の瞬間には、何もかもが終わっていた。


※※※


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