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数ミリでも近くに
【大人 恋愛小説】

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二人のペース-2

「シェアハウス内で、まぁくっついたり離れたり、ドラマみたいだね、全く」
 クリスマスに武との会瀬を愉しんできたスミカは、夕食のエビフライを食べながらそう言ったが、葉子は「スミカだってやってたじゃん」と思わない事も無かった。
「理由も理由だけどさ、性的不一致って」
 健人はちらりと晴人を見遣ったが、ガツガツとエビフライを口に運んでいる。
「まぁ、性に関してはひとそれぞれ考え方はあると思うしね。葉子と俺がこれから順風満帆にいくかどうかも未知数だしさ」
 健人は今度は葉子を見遣ったが、偶然顔を上げた彼女と目が合ってしまい、葉子は頬を赤らめて目を逸らした。
 スミカと健人はどうだったんだろう、と葉子はふと思った。彼らが一時期付き合っていた頃は、健人は性的に淡泊だったんだろうか。
 自分に合わせて淡泊を装っているとしたら――。
 健人に限ってそれはないとは思うが、やはり気になる。
 夕食が終わり、片付けが終わったスミカを捕まえて、葉子は自室に招いた。


 スミカは椅子に、葉子はラグに座った。
「ねぇ、スミカと健ちゃんが付き合ってた時はさぁ――」
 端的に訊いて良い物か、言い淀んでしまった。
「セックスの話?」
 いつでも歯切れの良い物言いをするスミカが羨ましいなと葉子は思う。
「そう。しょっちゅうだった?それとも時々だった?」
 スミカはフフフと笑った。「健人を疑ってる?」
「そういう訳じゃないけど――」
 窓の外を一瞥し、それから葉子に視線を移したスミカは口を開いた。
「二度しかしてない。俺はあんまりしないからって言った。私はてっきり葉子に未練があるからだと思ってたけど、本当に淡泊なのかって今回の事で知ったんだよ」
 葉子の頬が緩んだ。嘘じゃなかったんだ。
「でも世の中、健人みたいな人って少数派だと思うよ。大抵晴人みたいな人が多い」
 経験の多いスミカが言うと妙に説得力があり、「ほほう」と講演会でも聴くかのように納得している葉子がいた。
「私は健人ぐらいのペースが丁度いいと思うって言ってもまだ、その――してもないんだけどね」
「私はクリスマスイブとクリスマスで四回はしたかな」
 葉子は両手で耳を塞いだ。


 一月に入ったある夜、葉子は自室から健人に電話をした。
『どうした?』
「今からそっちに行ってもいい?」
『あぁ、いいよ』
 葉子は健人の部屋に行くと、目の前でドアが開き、健人が出迎えてくれた。
「ベッドに腰掛けていいよ」
 言われた通り、葉子はベッドに座った。横にあった枕を手に取り、抱きしめた。
「あのね、こんな事言って変な奴だと思わないでね」
 断りを入れた。健人は眼鏡の向こうで優しく微笑んで頷いた。
「健ちゃんの身体を、知っておきたいの。そんな風に思ったんだけど、変かなぁ?」
 健人は椅子から降り、葉子の隣に座った。
「葉子とは気が合うなと思うよ。俺もそろそろ、と思ってたんだ」
 長い髪を、大きな手で撫でる。まだ完全に乾ききっていない髪からは、シャンプーの香りが香った。
「淡泊だからって言われるとそれはそれでどれくらいのペースでやったらいいのか分かんないんだけど――」
 そう言う葉子を健人は両腕でギュっと抱きしめた。葉子が抱いていた枕は、床に落ちてガサっと音を発した。
「これから二人のペースを探していけばいいんだよ。そんなに難しく考えなくてもさ」
「うん、そうだね。健ちゃんは優しいなぁ」
 抱きしめていた力を緩め、健人は葉子の唇に短いキスを落とすと、立ち上がって電気を消した。ベッドの宮に眼鏡を外して置くコトンという音がする。
「隣はスミカがいるからね。声が出ない様に優しくするから」
 そう言って健人は葉子のパジャマのボタンに手を掛けた。


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