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果てしなく生きる
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果てしなく生きる-1

――― 果てしなく生きる


 それはどこかで見たことのある風景だった。
いろんな人がいて、いろんな生き方をしている。
けれど、何かが足りない。
それは何だろう。
考えても分からない。

子供がひとりで泣いている。親とはぐれたのだろうか。騒がしい雑踏の中心で、ひとり叫んでいる。きっと彼も近い将来、その雑踏の一部になる。干渉を畏れて、人は無関心を覚える。
今、痛切に感じる。
干渉できることは、素晴らしい。
人は誰しも、共鳴できる可能性がある。
人は、誰しも。

少年はひとり、殻を閉じている。誰にも騙されまいと、目を尖らせている。きっと彼は後悔する。確かに世界は理不尽に満ちていて、敵意に溢れている。けれどそれは受け入れなければならない。
悪が在ることは、何も無いよりも意味がある。
すべてを受け入れてから、いらないものを捨てればいい。
受け入れる媒体があるのなら。
それを活用すべきだ。
受け入れる媒体があるのなら。


何かが足りない。
この世界には、圧倒的に、何かが足りない。

老人はひとり、死を見つめている。だから今、そこにいることに満足している。それはとても有意義だ。
誰もが彼のように暮らすべきだ。
明日があるという素晴らしさを、誰もが感じるべきだ。
私は、声を大にして言いたい。
けれど出来ない。
そうだ。
この世界に、足りないもの。
それは、わたしだ。
わたしという個体が存在しないのだ。

きっといつか、どこかで、わたしは消えた。
それなのに日々は続いている。
どうして、わたしのいない世界が、ここに在り続けるのだろうか。
そしてその世界を、どうしてわたしは見続けることができるのだろうか。

もう、わたしには体が無い。
だから照りつける、あの太陽の光を感じることが出来ない。
木々を揺らす、あの緩やかな風の音を聞くことが出来ない。
心を癒す、あの子供のような笑顔を抱きしめることが出来ない。
それなのに、なぜ消え去ることができないのだろう。
わたしのいない、その世界の残滓を見遣る。
その行為に、いったい何の意味があると言うのか。

顔をしかめながら、暮らす人がいる。
嘘で固めた道を、歩き続ける人がいる。
過去に囚われて、動き出せない人がいる。
彼らは知らないのだろうか。
死は、すぐ傍にあるということに。
不意に途切れた人生は、永遠に宙に浮いたまま。
不意に途切れた、わたしの人生は。
きっと、えいえんに。

神は、なんて残酷なのだろう。
わたしは、もうここにはいないのに。
わたしは、まだ消えることが出来ない。

きっとわたしは人だった。
鳴り止まない着信に追われている、あのくたびれた会社員のように。
むかしわたしは人だった。
かつての夢を忘れ、すっかり落ち着いた、あの主婦のように。
けれどわたしは今、そうではない。
わたしは、すべて。
わたしは、風であり、光であり、空気であり、波である。
この世界を構成する、その全てと混ざり合い、薄れていく。
記憶が薄れていく。
意志が薄れていく。
感情が薄れていく。
やっと、逝ける。


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