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迷い男
【エッセイ/詩 その他小説】

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迷い男-2

 雪の街で最初に出会ったときは、彼女は別に笑っていなかったけど。
 降りしきる雪のせいで背景に焦点を合わせられない、そんな街だった。
 俺に限らず、世界すべての輪郭をあいまいにする白。まるでかつて俺を怖がらせた黒い闇にも似て。
 成長した俺には、もう怖くなかった。にじんだ世界と一体化する幻想が、むしろ心地良いとすら感じていた。
 信号待ちの交差点の向こう側に、彼女がいた。ぼんやりとした街は、人は、全部彼女の背景のよう。それくらい、たった一人彼女は揺るがない輪郭と色とで以て立っていた。

 まっすぐに、立っていた。

 不思議な感覚だった。不可思議な既視感だった。けして不快なのではない。ただ。
 そう。ただ、引きずられるような。

 彼女のひざにもたれたまま、目を閉じた。降ってくるやさしい声。触れる冷たい手。
 幼い日に見た青い空、白い雲に映る、飛行機の黒い影。そんな光景が本当に見えているわけじゃないが、同じように、胸がじわりと熱くなる。
 いつもそう。だから俺は幼いあの日のように手をのばした。
 触れるのは空の青じゃなくて、彼女の冷たい、たぶん笑っている頬。
 だが俺はかまわないと思う。本当に触れたいのは、その頬だったんだとも思う。
 じわり。
 わきあがる熱。触れたかったもの。やさしさではなく、愛…でもなくて。
 勇気、信念。そんな言葉の甘さに辟易した。
 覚悟。その言葉の強さに怯んだ。
 だからそのどれでもなく、言葉に変換することのできないもの。
 迷うことへのおそれも忘れさせてただ前へと走らせる、熱。
 だから彼女と一緒にいるのかもしれない。錯覚でも思いこみでも、それを感じたくて。
 漠然とした不安の中に常にいる、そんな心許ない安定。家のわからない迷子の心地。
 それから、少しだけ、逃れられる。
 そうか。だから彼女は奴に似ているのか。だから。

 こんなにも。


 その朝はひどく寒かった。
 彼女は不意にカーテンを開けると、まぶしげに見上げる俺にこう云った。

「外は雪よ。真っ白」

 ほとんど黒みたいな空を背景に、雪が散っていた。街はまた輪郭をなくしているだろう。
 俺は無性にあのぼんやりした世界に身を置きたくなって、外に出た。
 なかば本気で迷おうと、でたらめに歩いた。奴に会いたかった。迷子になれば会えると思った。
 何度引っ越して、迷子になるたび家の方向は違っても、奴は現れ、正確に指し示してきた。不自然と云えば不自然。
 夢でも見ていたんじゃないかと母親も云っていた。
 だが覚えている。俺は確かに迷子になったし、確かにそのたび奴と出会った。


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