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ROB
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ROB-6

フロントに入ってすぐ二人を出迎えたのは,前方にある,大きなガラス窓。天井から床,端から端まで,壁一面がガラス張り。そこから,噴水のある庭が見える。その側に白いベンチが置かれているが,誰も座っていない。座るはずがない。あれではフロントから丸見えだ。きっと単なるオブジェに過ぎないのだろう。俺は自分がそこに座っているところを想像し,ぞっとした。
 演技はすでに始まっている。俺はヤマダの,息子のふりをする。落ち着きのない,息子のふりをする。首を忙しく動かし,辺りを物珍しげに眺める。そうすると同時に,逃げ道や,隠れられる場所,また,どういうホテルなのか,確認する。対するヤマダは,冷静な父を演じる。こいつ,気後れしているのではないかと,先刻まで心配していた俺だったが。さすがは古株。横目の俺がみた,傍らの彼は,まるで別人。背筋が伸び,余裕のある笑みを浮かべている。
「木村様,ようこそいらっしゃいました。」
 フロントの女が頭を下げる。木村様,は,むろん,俺たちの偽名だ。誰も疑わない。こうしてすんなりと,俺たちは部屋のカードキーを渡された。予約したのは,最上階。非常階段のすぐ側に位置するその部屋は,ターゲットの隣室。
「しかし,とんでもないホテルだな。」
 エレベータに乗った途端。ヤマダが突然,口を開く。
「なんなら,一泊していくか」と,ヤマダ。
「そんな金,あるのかよ」俺が怪訝な眼差しを向け,問う。
「そのくらい,なんとかならねえの」ヤマダの萎れた声。
「ならねえよ。」
「ああ残念。ぜひともお前と一夜を共にしたかったね。」こういう冗談は,軽くあしらうべき。
「それはそれは,光栄だな。」
 本当,変な男だ。
 俺は,吹き出しそうになったが,辛うじて堪える。
 ふと,ひとつ,考えがよぎる。
 もしも俺が,こいつだったら。
 こいつとして,生まれていたら。
 もしかしたら……。
 今よりずっと,ましだったかもしれない。
 エレベータが最上階に着く。
 暗黙の了解で,口を紡ぐ俺たち。
 機械音とともに,ドアが開く。




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