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眩輝(グレア)の中の幻
【大人 恋愛小説】

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strawberry fields -1

 桜が咲いた。土間川沿いは桜並木になっている。枝の先が少し赤みを帯びたと思ったら、急に薄桃色の花びらが噴き出すように咲き始め、樹を覆う。
 咲いた傍から風に吹かれ、花弁は散る。秋は枯葉が浮かんでいた土間川に、今は桜の花びらが浮かんでいる。何かのモザイク画の様に見えなくもない。
 私は桜の花よりも、二月に咲く梅の花が好きだ。
 あまり注目もされず、愛でられもしないけれど、がっしりとした枝に少しだけ花をつけ、寒さに耐えているあの姿は素敵だと思う。梅の花の散り際なんて見た事が無い。梅の花はどうやって姿を消すんだろう。

 今日をもって課長は、神奈川支社を出て、東北支社へと戻る。
 代わりに本社から課長クラスの人間がこちらに来るという話だ。
 今日は課長の送別会で、チェーン店の居酒屋で飲んで騒いでいる。
「山崎課長は、今日をもってうちの支社を出て、東北支社に戻られます。何と、奥さんが妊娠してます!」
 幹事の甲高い声が耳に障る。拍手もだ。
 涼子は苦々しい顔を隠さないし、神谷君は乾杯もしてないのに鶏軟骨をつまみ食いしている。
 私は――私もさすがに笑顔ではいられなかった。課長の首元を彩るネクタイが、紺地に緑の刺繍が入った、あのネクタイである事も一つの理由だ。
 乾杯をしても、いまいち食欲が出ず、隣に座る涼子とぽつり、ぽつりと話をする程度だった。
 涼子は気を遣って、あまり「その」件には触れないでいてくれた。やはり噂はしっかりと、とある経路を回って、涼子の耳にも届いていたそうだ。

「二次会行く人は駅前のカラオケ屋さんに集合してください。課長はどうします?」
 幹事は酒が入って更に甲高い声をだしている。
「僕は明日早いから、遠慮しておきます」
 そう言うと、殆どの人が二次会へと移って行った。主賓がいなくても成り立つ二次会だ。
 涼子は「私、帰るわ」と言ってさっさと駅の方へ向かった。
 私はお手洗いに行き、それから店の外に出た。冷たい春風が一瞬、顔をかすめ、あの、シェービングクリームの香りが漂った。

 課長が、そこに立っていた。エメラルドグリーンのマフラーを首に巻いていた。
「ちょっと話をしないかい?」



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