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眩輝(グレア)の中の幻
【大人 恋愛小説】

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秘密のデザート-1

「沢城さん」
 会議からの戻り道、廊下で後ろから声を掛けられた。澄んだ声の持ち主は課長だった。
「あ、お疲れ様です。課長も会議ですか?」
 課長の手元にはいくつかの資料が握られていた。
「うん、そう。今終わった所なんだ。ところで、食事の事なんだけど」
 私は先日の神谷君とのやり取りを思い出し、足元に視線を落とした。
「あの、その件、お断りしようかと思ってまして――」
 課長はその細い目を目いっぱい広げて丸くした。
「どうして?」
「奥様やお子様に会ったりしたらまずいですよね――」
 私は再び俯き、そのまま顔を上げる事が出来なかった。
「ハハハ、それなら心配ないよ」
「え?」
 課長の朗らかな笑い声に、私は顔を上げ、彼を見た。
「僕ね、単身赴任なんだ」
 目を細めて口元を引き上げる。そんな風に課長は笑う。。
「何しろ君を取って食おうなんて思ってないから心配しないで。今週の金曜日なんてどうかなぁ?」
 何かを喋る度に、真紅の唇から覗く真っ白な歯列の整いが目に入る。綺麗で、色っぽい。
「えぇ、そう言う事なら、じゃぁ金曜日、予定しておきます」
 顔を傾け、にっこりと笑顔を作った。

 居室の前まで来ると課長は「じゃ、そういう事で」とこの会話を不自然に終わりにした。
 室内の人達に当然、知られたくない事なのだろう。


 金曜の朝、デスクの上に小さなメモが置かれていた。
 「カッペリーニというお店、十八時で予約しています。山崎」
 山崎直樹。課長の名前だ。私に「女らしさが足りない」と言った元彼も、漢字違いの「山崎尚樹」だったので、すぐに覚えた。

 昼休み、涼子に今日の約束の話をすると、彼女はニヤニヤとして言った。
「面白そうじゃん、何かあるかもよ」
「何もないよ」
 彼女は持っていた小銭入れを空に投げては取っ手を繰り返した。
「興味ない子を食事に誘わないでしょ。私、誘われてませんけど、何か?」
 そんな事を言うので、吹き出してしまった。
 それにしたって皆、同じような事を言うもんだな。
 課長と食事=何かあるって?それは双方の合意があって初めて成り立つものであって。
 課長の心を読む事は出来ないけれど、少なくとも私は――私は?
 課長が眼鏡の奥にある目を細めて、口を引き上げて笑う顔や、会話中に見える歯列、澄んだ声。何かの香り。気になる部分が沢山ある。気になり出すと、更に気になる。
 考えただけで何故か顔が火照るのが分かった。
 相手は妻子持ちだ。沢城みどり、よく考えなさい。もう、子供じゃないんだから。




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