海水欲-6
「年齢も自由自在かよ?」
助手席に乗り込んだ今村がまじまじと俺を見る。
何でお前が助手席なんだよっ薫子がそこだろうが……と思いつつ今村の質問に答えた。
「まあな、人間の世界じゃ未成年だとややこしい事も多いしな」
ちなみに30代、40代の年齢設定も準備してある。
「高野くんって……本当に人間じゃないのね」
加藤が斜め後ろの席でポツリと呟いた。
「怖い?」
俺は苦笑いしてミラー越しに加藤を見る。
妖怪だとバレると大抵の人間は怖がる。
「便利」
ブハッ
「アハハっ!そうきたかっ!やっぱお前ら変だっ!」
加藤の答えは意表をつくもので、俺は運転しながらも腹を抱えて笑う。
加藤は何で笑われているのか分からない、という顔で首を傾げていた。
目的地は県外のあまり人気の無い海水浴場。
近くに旅館などの施設は無い代わりに、海沿いのラブホテルがかなり良いのだ。
何が良いって旅館みたいに料理人が居て食事が美味しいし、露天風呂まである。
でも、ちゃんとプライバシーを守ってくれる所はラブホテル。
友達同士でただの旅館として使うのも有り。
ホテルに着くと俺は一度車を降りて受付に向かう。
「こんにちはぁ〜予約してた高野ですけどぉ〜」
大きな声で呼びかけると、奥の方からバタバタと音がする。
昼前のこの時間は食事の準備で忙しいはずだ。
「はいよ〜っ…っと、えっ?!高野さん?!」
俺の顔を見た途端、受付のおばちゃんが驚きの声をあげる。
そりゃそうだ、10年ぐらい前は頻繁に利用してたんだからな……40代の姿で。
「アハハっおじさんが言った通りだ。俺、10年ぐらい前によく来てた高野の遠い親戚なんだ」
用意していた嘘をさらっとついて人懐っこく笑う。
「ああ……そうだよねえ……若すぎると思った。あんまりソックリだから驚いちゃったよ。高野さんは元気かい?」
「うん。海外勤務になってあんまり会わないけどね」
よくもまあ次から次へと嘘が出てくるもんだ、自分で呆れる。
「おじさんが料理が美味いからって教えてくれたんだけど……ラブホテルとはね」
「ははは、高野さんは言わなかったかい?」
「おじさん、悪戯好きだからなあ」
「確かにね、予約は離れの方だね。4名様、間違いないかい?」
「そう。夕食は部屋にお願いします」
「はいよ。鍵はこれ、ごゆっくり」
「ありがとう」
部屋までの案内は無し、こんなとこはラブホテルらしい。
俺は鍵を指でクルクル回しながら車に戻って離れの方に移動させた。