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牛乳
【二次創作 恋愛小説】

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牛乳-3

※※※

 それから、しばらく僕は卒論に神経を注いだ。注がなければ、現実に引き戻され、凛と葛山の結婚を受けとめなければならないと思ったからだ。

 ある日、アパートに帰ると郵便受けに結婚式の招待状が来ていた。もちろん二人の――――。

 封を開けず、そのまま捨てようかとも思った。だって、もう二人とはなんの関係もない。この前だって約四年ぶりにメールが来た。葛山との間に高い壁がある。果たして友達といえるのか。多分今のところ、他人以上友達未満という関係ではないだろうか。悪魔が僕にまた囁いた。参加しないほうがいいのではないだろうか。

 しかし、僕は結婚式の招待状を開けた。久しぶりにメールが来たからと言って、関係性が薄れるわけではない。友達は友達。それは永遠に、永久に変わらない。それが僕が出した結論だった。

 招待状の中には、参加するかしないかの往復はがき、そして、結婚式でみんなの前で一言話してほしいという手紙が二人の連名であった。

 僕は困った。人前で発表するのが苦手というのもあるし、申し訳ないけど二人に対して素直に祝いの言葉が出てこない。嘘でも書けばいいと思うけど、それは二人に対して失礼にあたると思う。こういうことは心からの、本心からの言葉でないと祝った感触が残らないと僕は思っていた。

 だけど、僕は二人の友達なのだ。その気持ちに嘘偽りはない。ならば、祝うことが出来るはずだ。出来なければおかしいのだ。だから、考えよう。祝いの言葉を――――。

※※※

 結婚式が終わり、僕はアパートに帰った。二人には申し訳ないけれど、二次会・三次会にはどうしても出る気にはなれなかった。気持ちが暴発してしまうのではないか、と危惧したからだ。

 と言ってみたところで、それが言い訳だ、というのはわかっていた。単純に彼女が幸せそうな顔を見ているのが辛かっただけ。それだけのこと。

 ノートパソコンの隣にはガラスのコップがある。そこに飲みかけの牛乳が入っていた。昨日飲んだままそのままにしてしまっていた。

 それを持ち窓に視線を向ける。アパートの四角い窓の向こうは夕焼けに照らされた高層ビルが並んでいた。橙色のそれらは僕の気持ちを代弁しているように思えた。悲しくもあり哀しくもあり嬉しくもあり楽しくもあり、そんな複雑な気持ち。

 視線をガラスのコップの牛乳に戻すと、牛乳が波立っている。手が震えている。そして、何かが牛乳の中に落ちた。

 それが僕の涙だと気付いたとき、僕はもう牛乳が飲めなくなった――――。

End

牛乳/高橋乳(高橋優)


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