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永久の香
【大人 恋愛小説】

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クリスマスの電話-1

 新製品の展示会の為、東京まで行った。
 丸1日サイと一緒にいて、疲労困憊だった。
 何度「口チャック!」と言いそうになったか。
 クタクタのまま玄関のドアを開け、ローソファに倒れこんだ。

 携帯が短く震える音がした。
 身体を起こして鞄から携帯を取り出し、またソファに寝そべってディスプレイを見ると、リンからだった。
『24日の夜と25日、予定入れるなよ』
 彼がメールを送ってよこす事は殆ど無い。用事があれば社内のメールを使うか、直接会ってやりとりをする。勿論、私も殆ど連絡しない。
 だからこそこのメールが嬉しくて、こそばゆかった。
 そのまま重い身体を起こし、シャワーを浴びた。お湯を張って入浴するほど力が残っていなかった。
 シャワーを浴びて髪を半分だけ乾かしてリビングに戻ると、またメールが着ていた。
『何か返信してこいよ!』
 何か可愛い人だな、と思って薄ら笑ってしまった。
『はいはい、空けときますよー』

「クリスマスは、何か予定あるんですか?」
 外回りの車の中で、珍しく私から会話を振った。酷く後悔した。
「え、何もないけど。もしかして誘ってくれて――」
「違います」
 ほんっと、不本意だ。ちくしょう。サイの言葉に被せて否定してやった。
 明日はクリスマスイヴだ。リンが家に来る。今日、仕事終わりに何かプレゼントでも買って帰ろう。


 クリスマスイヴ。明日は祝日とあって、どこの取引先も面倒な仕事を押し付けてこなかったので、定時であがる事が出来た。
 1時間ぐらい残業になるというリンを待つ間、駅前のショッピングセンターの地下で、クリスマスっぽいお惣菜を買いこんだ。お酒はもう、冷蔵庫に冷やしてある。今日はワインもある。
 仕事を終えたリンと合流し、電車に乗って我が家へ帰った。
 寒くて寒くて、マフラーに顔を埋めていると、リンが自分のミントグリーンのマフラーを取って、私のマフラーの上から巻きつけてくれた。煙草とは違う、リンの匂いがして、少しくすぐったかった。
 上目づかいで笑ってみせると、頭をぽんぽんと叩かれた。


「時間が時間だし、出来合いの物ばっかり買ってきちゃった」
 ビニールから色々な惣菜を取り出し、温める物とそうでない物を仕分けする。
「何だっていいよ。酒とつまみがありゃ何とかなる」
「まぁそう言わずに、色々買って来たから」
 トースターにチキンを入れ、レンジでパプリカの炒め物を温めた。
 サラダの類はお皿に乗せ替え、見栄えを良くした。うん、上出来。
 温めた物を皿に乗せる時「冷蔵庫からワイン出してくれない?」とリンにお願いした。
 カウンターに置いてあった携帯から着信音がした。誰だろうとディスプレイを見ると、中田さんだった。
『もしもし、落合さん改め沢田さん?』
「なにそれ、沢田でいいよ。どうしたの?」
『うん、どうしてるかなと思って。クリスマスだし』
「今食事の支度してた所」
 肩と耳で携帯を挟みながら話した。
「ワイングラスってどこにあんだ?」
 リンが言うので「食器棚の左奥にある」と答えた。
「ごめんね。こんな感じ。そっちは何してる?」
『うん、こっちは――彼が一時帰国してて、これから食事するところだよ』
「え、帰国してるの?それは楽しいクリスマスになるね」
『うん、ありがとう。ごめんね、忙しい時に電話しちゃって。じゃ、切るね』
「はいはーい、メリークリスマスー」

 すっかり盛り付けが済んだ物を、2人掛けのダイニングテーブルに載せた。テーブルが狭すぎて、「ソファで食べるか」という結論に至った。
 赤ワインで乾杯し、食事を始めた。
「さっきの電話は?」
「友達。彼氏がアメリカに出張してるんだけど、一時帰国でこっちにいるんだって」
 あふっとこんがり焼けたチキンの熱さに驚く。
「でも何で電話なんて掛けてきたんだろう。彼とよろしくやってる時に」
 リンはパプリカをシャキシャキと噛みながら「確かにな」と言った。
「自慢したかったんじゃねぇの、クリスマスだから彼が駆けつけてくれたのよー、みてぇな」
 パプリカうめぇなぁと言ってもうひと口食べた。
「そうかもね、羨ましいなぁ」
 中空に視線を漂われてると「何だよそれ、俺がいんだろぉが」と突っ込まれた。
 その顔がまた拗ねた子供の様で、愛らしかった。

 食事を終え、とりあえず空いた食器だけを洗っていると、リンが近づいて来た。
「一応、キッチンが似合うな」
 むっとした。一応とは何だ。
「ちゃんと出来る日は自炊してるんですぅー」
 洗い物の手を止めずそう言うと、リンが後から抱き付いてきた。
「ちょ、邪魔なんだけど、邪魔な事山の如しなんだけど」
「早く洗い物終わらせろよ」
 抱き付いて、私の耳にリンの鼻が触れる。「良い匂い」と耳元で囁く。
「早く終わらせるから邪魔しないの。あっちいってなさーい」
 リンはニヤついた顔でリビングへ戻って行った。何だアイツ。


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