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永久の香
【大人 恋愛小説】

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物件の決め手-1

 家に着くと、9時を過ぎた所だった。
 遅めの朝食を作る。
 昨日淹れたコーヒーは冷蔵庫の中で冷えているので、あとは食パンを焼いて、ヨーグルトを用意するだけ。
 パンにはマヨネーズとチーズを乗せて焼く。
 コーヒーは甘目、牛乳も少し入れる。
 高橋君は朝ご飯、食べたのかなぁ。ぼんやりとそんな事を思う。
 そういえば、昨晩も彼女と格闘、とか言ってたっけ。
 裸で格闘?そっちじゃないよな、まさかな。

 別れたいのに別れてくれない、か。
 自分だったら好きな人に「別れたい」と言われたら、理由こそ聞くけれど、それを聞いたところで相手の心は自分にないと判断し、別れるだろう。
 結婚の様に、重たい関係じゃないなら殊更に。
 高橋君と別れたくない理由って、何なんだろう。高橋君じゃなきゃダメな理由。
 そんな事は本人にしか分からないよな――。
 彼女がとてもプライドが高いとか?んー、ベタか。
 高橋君とのアレが、凄くいい、とか。私が欲求不満なだけか。
 いくら考えても辿り着かない答えを探し回るのを諦め、コーヒーで食パンを飲み下した。

 食器を洗いながら、窓の外を眺めた。
 今日は快晴、部屋からは、河原でキャッチボールをする人や、サイクリングする人が見えた。
 この部屋を借りると決めたのは、土間川が見える事、土間川の花火大会が見える事だった。
 去年はベランダにアウトドア用の椅子を出して、ビール片手に花火を観た。
 狭いベランダから観る花火は、殊更でっかくて、花火が降ってくるみたいだった。
 硝煙が風に乗って舞い込んでくるのも、オツだった。
 今年は椅子をもう1個、買い足しておこうかな。そんな事を思った。

 これと言ってやる事も無く、携帯と文庫本を持って外に出た。
 マンションの裏に回り、幹線道路を渡り、河原へ着く。
 さっきまでキャッチボールをしていた2人組は、もういなかった。
 代わりにゴルフの素振りをする、禿散らかしたオヤジが1人いた。
 芝生の適当な場所に寝転がり、文庫本を読んだ。
 読みながら、高橋君のメールアドレスも、携帯番号もまだ知らない事を思い出した。
 まぁいいか。会社で会うし。わざわざ聞き出して「お、こいつこの交際にノリノリだな」なんて調子付かれたら面倒臭いし。そもそも交際してないし。

 ノリノリになっている、という事実は認める。


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