降臨-4
《おい。猿。人間というのはこんなに喧しいものなのか?》
おおっと。
関わりたくないのに念話で語りかけてきたぜ、ちくしょう……無視してえ……。
《コラ。エテ公。答えぬか》
気づかないふりをしてみたが無駄なようだ。
《そっすね……転校生とか珍しいっすから、暫くは騒がれますね》
渋々答えると薫子様の耳がぺたんと垂れた。
同時にチャイムが鳴り、教師が入ってきてたむろってる野郎共に注意する。
やっと質問責めから解放された薫子様は深々とため息をついた。
《どうにかならぬか?》
いやいや、そんな事言われてもなあ……。
困っていると今村がコツンと椅子を蹴ってきた。
「んだよ?」
振り向くとニヤニヤ笑っている今村が囁き声で話かける。
「お前らの会話、俺には聞こえてっぞ」
おお、さすが霊感少年……念話も聞こえるとは大したもんだ。
薫子様も驚いた顔で今村を見ていた。
《彼は今村っつって霊感少年なんすよ》
今村は薫子様に軽く会釈してコソコソ話す。
「次の休み時間は璃子に頼め。あいつにも聞こえてるみたいだし?」
今村が顎で示した先、窓際の席の加藤がこっちを見てコクンと頷いた。
《あ〜っと……加藤?次の休み時間、乾さんをトイレに案内するとか言って連れ出してくれっかな?》
念話で聞いてみると加藤はにっこり笑ってみせる。
《感謝する》
薫子様は短い礼を言った後、普通に授業を受け始めた。
しかし、その尻尾は嬉しそうにパタパタ振られている。
雄弁な尻尾だこと……思わず吹き出した俺を、薫子様は不思議そうに一瞥したのだった。
そんなこんなでクラスメートを誤魔化しつつやっとこさ放課後。
「つ〜か〜れ〜た〜」
俺は今村のバイト先、喫茶店『黒猫』のテーブルに突っ伏していた。
興味津々で集まるクラスメート、転校生を一目見ようとわざわざ教室を覗きに来る学校中の生徒からさりげなく守るのは神経が疲れる。
目の前に座っている薫子様は素知らぬ顔でアイスグリーンティーをすすっていた。