降臨-21
「……高野……」
「へ?」
勃ってきた愚息をなんとか誤魔化そうと躍起になってたら、薫子が呼びかけた。
少し顔を上げて様子を伺うと、薫子が肩越しに振り向いてこっちを見る。
その表情は怒りではなく、羞恥?
「お主の名前……高野……」
「え?ああ、篤です。元々の名前はアツ」
昔、ただの猿だった時に人間が勝手につけた名前だが気に入っている。
「アツ」
「はい?」
薫子は躰を隠す事無くちゃんと振り向いて俺の頬に両手を伸ばした。
何?なに?ナニ?
両頬を挟まれて上を向かされた俺は戸惑いながら薫子を見つめる。
薫子は少し微笑んだ後、そっと唇を重ねてきた。
「い、犬神様?」
俺は驚いて体を離し、尻餅をついて後退るが、背後にあったソファーに遮られすぐに逃げ場を無くす。
そんな俺を薫子は四つん這いでゆっくりと追い詰めていく。
まるで腰を抜かした老人に迫る狼のような図に少し情けなくなった。
「名前を呼んでくれ」
「はい?」
至近距離で囁かれた俺は間抜けに返事をする。
「怒って……無いんすか?」
「?何故怒らねばならんのだ?」
「いやいや、だって俺……無理矢理……」
「私が望んだ事だと言ったであろう?」
そうだけど……だけど……。
「……本当は……もっと優しくしたかったんです」
あんなレイプじみた行為でなく、普通の人間の恋人が初めて躰を重ねる時のような……幸せに浸れるような……そんなセックスを教えてやりたかったんだ。
「知っておる……お主……行為中、泣きそうな顔をしておった」
薫子は右手で俺の頬を撫でた。
「今みたいにな」
俺は堪らず薫子を抱き寄せ、胸に顔を埋める。
「すみません」
「謝る事はない。それに……なんだ……物凄く気持ち良かったのは事実だ」
少し照れくさそうに言いながら薫子は俺の頭を抱き、優しく撫でた。
ああ、欠陥なんかじゃない……俺なんかに汚されたりしない……あんたは正真正銘、神様だ。