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もうひとつの心臓
【大人 恋愛小説】

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27 令二-2

 妊娠してたのか。宮川の子か。志保ちゃん、楽しみだっただろうな。自分の赤ちゃんを抱くの、楽しみだっただろうな。
 色々な希望に胸を躍らせていたんだろう。お腹に自分の分身がいるってなぁ、どんな気分なんだろう。男には一生理解できない。

 そして、その分身が消失してしまう気分なんて、更に理解が及ばない。

 お腹の周りが痣だらけって酷いな。殴られでもしたんだろうか。何故自分の赤ん坊がお腹にいて、そんな事が出来るんだろうか。
 考えれば考える程、宮川と言う男の頭の中身がさっぱり分からなくなる。
 あの張り付き笑顔の裏に、どんな邪悪な面を持っているんだろう。

 救急外来のドアが乱暴にドンと開き、ドタドタと足音がした。音のする方を見遣ると、宮川が俺に向かって歩いてきたので、俺は立ち上がり会釈をした。
 するといきなり左頬に拳を打ちこまれた。俺は長椅子にドスンと倒れこんだ。壁に強かに頭をぶつけた。
「何やってんのっ」斉藤という女医が偶然通り掛かり、見ていた。
「玄田さんの彼氏だね。ちょっと中に入って。それと君、口のとこ、血が出てるから。一緒に処置してあげるから」
 左の口角から鉄の味がした。本当だ、切れてる。
 俺は自分の荷物と志保ちゃんの荷物を持って立ち上がると、宮川が志保ちゃんの荷物だけを乱暴に取り去った。
 宮川の目にはどす黒い物が渦巻いていた。そう見えた。
 ここまで敵意を露わに出来る人って凄いな。アンタは発情期の雄か。

 先程までいた小部屋に入る。「どうしてこいつが一緒なんですか?」と宮川が抗議したが、「彼は色々知ってるみたいだし、あなたに殴られてるから処置しないと」と言って同室を許可してくれた。
 要は、宮川が嘘を吐けない状況に、斉藤女医はしているんだろう。
「まず、彼氏君、君は彼女が妊娠していたことは知っている?」
「はい。知ってます」
 眉間に皺を寄せている。酷く面倒臭そうな顔をしている。こんな顔もするんだな、と思う。
「さっき運ばれてきた彼女、流産しちゃったの」
 簡易的に俺の処置をしながら、宮川を見ずに言った。
「あぁ、そうですか。残念です」
 随分とあっさりだ。女医もそう思ったのか、俺の処置の手を止め、宮川の方へ目を遣った。
「随分あっさりなんだね。中には泣いちゃう旦那さんもいるんだよ」
「あぁ、自分は別に。結婚もしてないですし」
 女医は「あっそ」、と言い放ち、俺の口角に小さなテープの様な物を貼り付けて「ハイ終わり」と告げた。

「それで、彼女の身体、特にお尻から鳩尾の辺りにかけて、まぁお腹中心に、沢山の痣があったんだけど、心当たりは?」
「さぁ」
 さぁじゃねぇよ、お前がやったんだろぉがっ。言いたい衝動に襲われたが、そんな事を言う権限は俺にない。女医に任せた。
「まぁね、ここは警察じゃないから。それに、その痣と流産の因果関係だって調べられないから、責めるつもりはないけど、彼女と幸せになりたいなら暴力はやめなさい」
 その冷たい目線は、宮川の目をじっと捉えて離さない。宮川も女医の目を敵意剥き出しの目で見ている。
「他人のアンタになにが分かるんだよ」
「分かる訳ないじゃない。他人だもの。他人だから言ってやってんだよ、青二才」
 わ、この女医すげぇ。かっこいい。ちょっと惚れた。
「それと、DV認定されると、今は法律が厳しいからね、接近禁止命令なんて下っちゃうかもよ。出るとこ出れば、お金取られちゃうからね」
 こう言って1度部屋から出て、「こっち」と俺らを呼んだ。


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