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満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)
【ファンタジー 官能小説】

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赤の王族-3

大陸には、大小無数の国が存在するが、特に抜きん出ているのが強国イスパニラ。そして富裕な貿易大国のシシリーナだ。
 北国のフロッケンベルクは、錬金術と傭兵が有名ではあっても、国土は狭く、貧相な小国にすぎない。

 若い頃の王は、フロッケンベルクを軽く見ていた。
 ことさら攻め込もうとしなかったのは、あの貧弱な土地に興味もなく、傭兵も錬金術師も金銭でいくらでも雇えたからだ。
 必要な時に雇えば良い。わざわざ貧乏国を手に入れて養ってやるなど、バカバカしい話だ。

 だが歳を経て経験を積み、次第にフロッケンベルクの恐ろしさに気付いてきた。
 各国の持つ傭兵の中で、フロッケンベルクの傭兵は飛びぬけて評価が高い。
 それは単なる戦闘技術以上に、どんなに不利な戦況であっても、死ぬまで戦い抜く姿勢からだ。
 雇い主のためではなく、彼らの本当の主君……故国のフロッケンベルク王に恥をかかせないために。

 流行り歌にもあるように、彼らの故国へもつ忠誠心は揺ぎ無く高い。
 傭兵として戦う時ですらそうなのだ。自分達の王を守るためならば、どんな凄まじい猛兵になるか、容易に想像できる。
 特に、今の国王ヴェルナーは、民から圧倒的な支持を受けている上、なかなか油断なら無い食わせ者だ。
 何度か会談をしたが、どう争いを仕掛けようとしても、いつものらりくらりとかわされてしまう。
 それに……あの『姿無き軍師』!
 悪魔のごときフロッケンベルクの守護神がいる。
 誰にも姿を明かさず、手紙によってのみ的確な戦略指示を出す幻の軍師に、手ひどい目を見させられた国が、いくつある事か!

 気付けば“攻め込まない”のではなく“攻め込めなく”なっていた。
 認めたくはないが、認めざるを得ない。

 フロッケンベルクは、大陸の影の支配者だ。

 公に出来ない事実だが、ソフィアがシシリーナの女王になった時さえも、フロッケンベルクも一枚噛んでいた。
 一枚どころか、最終的には作戦も手配も、すべて『姿無き軍師』が仕組んだ。
 その結果、イスパニラ王はフロッケンベルクの傭兵を多数雇用し、北国へ莫大な賃金を払ったのだ。

 考えてみれば、今までにもこのような事例はあった。
 巧みに煽り、こちらに利益を与えると見せつつ、気付けば『姿無き軍師』の見えない手が、ごっそり富を北へ奪い取っていく。
 まるで魔性の蛭に、じわじわと体液をすすられている気分だ。

「確かな筋からの情報です。そこで……私に、王子達の身辺調査を一任願えませんでしょうか?」

 顔色の変わった王へ、ギスレ公爵が得意げに申しでる。
 冷静さを失いかけた王は、思わず頷きかけたがギリギリで止まった。額の汗を拭い、弟へ剣呑な視線を向ける。

「いや。調査は別の者に任せる。おぬしはどうも、早合点の気があるからな」
「しかし、王子達は結託し、謀反を企んでいるやもしれませぬ。さらに、妹のソフィアが大きな功績をあげて優遇されたとなれば、妬みもございましょうし……」

 弟の囁きを、王は一笑した。

「仮に息子たちが反旗を翻すにしても、個別にやるであろうよ。あれらは昔から仲が悪い」
「ですが、万一……」
「それより、せっかくやった領地をきちんと管理する事に専念せよ」

 公爵は釈然としないようすではあったが、もう一度凄みのある視線で睨まれると、ひきつっった愛想笑いを浮かべて黙る。
 実際、リカルドが鎮圧に向かった領地は、ギスレ公爵の管轄地で、甥に尻拭いをしてもらったも同然なのだ。
 ペコペコお辞儀をしながら、公爵は退室した。

「――まったく……」

 一人きりになった部屋で、王は忌々しげな舌打ちをした。
 ただでさえ苛立っていた所に不愉快な名を聞かされ、更に気分が悪い。
 しかし、それももうじきの辛抱だと、腹の虫を諌める。

 ソフィアが戻り次第、シシリーナ国とイスパニラ国の総力をあげてフロッケンベルクを攻撃してやる。
 小賢しい策を練る間も与えず、圧倒的な兵力で一蹴してやるのだ。

 大陸の真の覇者は誰か、忌々しい軍師と若造の王に、思い知らせてやる!!



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