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満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)
【ファンタジー 官能小説】

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変わり者の錬金術師(注意、性描写あり)-7

 媚薬の発情がおちついた途端、ラヴィは死んだように眠ってしまった。
 市場の生活で疲労が溜まっていただろうに、無理をさせてしまったのだから、当然だろう。

「はー……ヤバかった……」

 眠ったままのラヴィを二階の部屋に運び、大慌て研究室に戻ってルーディは呻く。
 鎮静剤を飲んでいなければ、あのまま確実に抱いてしまっていた。

 床に散らばったガラスの欠片を広い集め、零れた中和剤をふき取る。
 媚薬の開発など、もともと気の進まない仕事だったが“裏の仕事”で懇意にしてる相手からの紹介で、断りきれなかった。
 だが、やはり失敗だったと、いまさら後悔した。
 手早く済ませたいなら、奴隷市場で体感を頼む処女を買えば、などという意見に耳を貸したのも失敗だった。
 あの子を選んだのも失敗だった。
 今回は、嫌になるほど失敗と後悔の連続だ。

 鎮静剤の瓶も空になりかけている事に気付き、部屋の大きな窓から庭に降りた。
 垣根で覆われた庭は狭いが、意外と日当たりも良く、薬草の育ちも良い。
 周囲の家々は、ひっそり静まり返り、灯りもとっくに消えている。
 この周囲の住人は、田舎から出稼ぎに来た労働者たちばかりで、大抵この時間は寝静まっているからだ。
 そして住人自体もころころ変わるから、必要以上の関与をされたりもしない。

 夜風の中に、何種類もの薬草の香りが入り混じり、鼻腔をくすぐる。
 必要な薬草を摘み取り、部屋に戻ってすり潰してから、ろ過器に放り込んだ。
 この鎮静剤は、ルーディが開発したものだった。
 効果は数時間だが、凶暴すぎる血のたぎりを抑制できるのだ。
 欠点としては、嗅覚がだいぶ落ちてしまう事。
 それともう一つ。他人から指摘されてわかったが、あれを飲んでいる時のルーディは、少々冷たくなってしまうらしい。

 かといって、欠点は時に長所にもなる。
 たとえば今日、奴隷市場に行く時には、嗅覚をダウンさせる目的で鎮静剤を飲んだ。
 普段の嗅覚だったら、あそこの酷い匂いで、しばらく頭痛に悩まされただろう。
 『人型』をとっている時は、やはり嗅覚の好みも人間に近くなる。
 それに、物のように売り買いされている人達を見るのも、冷めた目でなければ、さぞ憂鬱になったに違いない。

 市場でラヴィの顔を見た時は、なかなか可愛い女の子だなと思うくらいだった。
 かといって本当にいかがわしい思いもなく、薬の開発が終わったら、てきとうに受け入れ先を探してあげ、さよならしようと思っていた。

 実のところ、ラヴィを買った代金で、媚薬開発の収入は無くなったも同然だ。
 だが、こういう仕事を請けるのは、フリーの錬金術師という顔を保つのに必要なだけだから、少々の赤字くらいは問題ない。
 それより、誰かと深いかかわりを持つほうが、よほどまずい。

「深入りしちゃ、まずいんだよ……」

 自分に言い聞かせるため、独り言を呟く。
 間抜けにも空腹の体力切れで倒れてしまったルーディを、ラヴィが小さな身体で一生懸命に助け起こしてくれた時は、律儀な子だと感心した。
 金で彼女の身を買い、無神経な頼みごとを提示した男なんか、放って逃げてしまっても不思議じゃなかったのに……。
 ルーディはお人よしに見られるが、口約束の空しさを知ってるくらいには、世の中にすれている。
 逃げられたら逃げられた時、と軽く思っていただけだ。

 その頃には、鎮静剤の効果はとっくに切れていた。
 取り戻した鋭い嗅覚が、薬草石鹸の匂いの向こうから漂ったラヴィの匂いを嗅いだ瞬間、何かが狂ってしまった。
 頭が真っ白になるほど欲情して、気づいたら押し倒して貪ろうとしていた。
 このメスをつがいにし、自分の種を植え付けたいと、その欲求しか頭になかった。
 彼女の悲鳴に我に帰らなかったらと思うと、ぞっとする。

 なんとか誤魔化し、作ってもらった美味しい料理を食べながら、更に思い違いしていた事にも気付いた。
 風呂に入ってこざっぱりし、食事のために前髪を上げていたラヴィは、なかなかどころか、メチャクチャ可愛かった。

 はっきり言えば、好みのど真ん中。

 頬の傷なんか、まるで気にならない。
 むしろ、あれはあれで宜しい。
 胸だって、あれくらいのサイズが俺は好みだ!と、心の中で叫んでいたのは内緒だ。
……かと言っても、親密になる事など無理。

 もうあんな事がないように、一刻も早く媚薬を試し、どこか働き口の世話をしたら、体よく出て行ってもらおうと思った。
 それで、無理をさせて今夜すぐに体感して貰ったのに……



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