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キャッチ・アンド・リリース
【大人 恋愛小説】

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18 茎-1

 久々に学校に登校した。この日は国家試験の仮採点日で、ギリギリ6割の自己採点よりも少し点数があがっていた。これが恐らくは正式な採点結果となるだろう。という訳で、合格はほぼ確定だ。
 タキもレイちゃんも、合格確定だった。まぁ彼女らは初めから、合格して当たり前の勉強っぷりだったんだけど。
 レイちゃんは私が合格(確定)したことを自分の事のように喜んでくれ。まるでお母さんだ。いや、うちの母よりも喜んでいたと思う。
 それから数日して、卒業式を迎えた。3年間の短く濃い時間を過ごした仲間たちは、就職で全国に散らばる。最後の記念にと皆写真を撮るのに躍起になっていた。

 合格が分かり、安心したところで、両親に1人暮らしがしたいと申し出た。母は初め、猛反対をしていたが、父が「経験しておいた方がいい」と言ってくれたおかげで、1人暮らしが許された。
 早速母と2人で、職場と自宅の中間あたりにある駅の不動産屋に行き、アパートを決めてきた。2階建てアパートのワンルーム角部屋で、部屋の横には川が流れている。綺麗な川ではないが、内覧した時はちょうど鷺が餌をついばみに来ていた。
 大きな家具もないので、父が軽トラを借りてきて、引っ越しをした。あっという間に1人暮らしが始まった。内覧した時は広く見えた6畳間は、テレビやテーブルを置くと何だか狭く感じる。だが1人で暮らすには十分だし、今までの4畳半生活に比べたら広過ぎるぐらいだ。

 ユウとはなかなか会うタイミングが無く、引っ越しが終わってから新居で会う事になった。
 「何か久々な感じだねぇ」
 玄関を開けて中へ促した。うん、とだけ返事をしてユウは部屋に入っていった。
 「あ、これ北海道の土産」
 黄色い包みのお土産を手渡された。
 「へぇ、1人暮らしって感じの部屋だね」
 「まぁどこのワンルームアパートも同じような造りだよね」
 サトルさんの家も同じつくりだった。とは言わなかったけど。
 どうぞどうぞ座って、とテーブルの横に座布団を置いた。私は台所で麦茶を入れ、テーブルに運んだ。
 「何で既に自宅にいます、みたいになってんだよ」
 座っていた筈のユウは寝転んでいた。つい笑ってしまった。
 その横に座って麦茶をすする。さて――何から喋ろうか。
 考えていたら、ユウの手が伸びてきて、私の左手を両の手で挟み込んだ。
 「何?どうしたの?」
 「暫く会って無かったから、触っておこうかと」
 「何のご利益もないよ。それよか、テツが言ってたよ、ユウが怒ってたって」
 自分から話を振ってしまった。
 「友達と勉強してたんでしょ。別にいいよ。俺も結構長く北海道に行ってたから、なかなかメール出来なかったし」
 「あはぁ、そうなんだ――」
 何だか気の抜けた返事をしてしまった。取り越し苦労ってやつか。てっきり今日この場で「誰と何してたんだ」とか「誰とナニしてたんだ」とか、そんな話になるんじゃないかと思ってたんだが。
 それでもユウの態度や話し方が、いつもよりも大人しい事がとても気にかかった。全てお見通しなのかもしれない。知っていて知らない振りをしているんじゃないか。
 「ねぇ、布団はどこにあるの?」
 「クロゼットに入ってるけど」
 部屋の隅を指さして言った。
 「出してよ」
 「何で?」
 「セックスしたい」
 「はぁ?」
 怒っていないらしいことは分かったけど、いきなりそれはどうなんだ、家についてまだ10分も経ってないというのに。
 それでも負い目を感じている私は、それに従おうと思い、敷布団だけ出した。
 そしてセックスをした。
 ユウは通常営業という感じでいつも通り、日向ぼっこの様に暖かく抱いてくれたが、私の脳裏をかすめるのは、サトルさんの影、体温、匂い。こんなに上の空で抱かれていては失礼だと思えば思う程、頭の中はサトルさんの事でいっぱいになる。せめて名前だけは間違えないようにしなきゃ、と真面目に考える。
 通常営業だと思っていたユウも、いつもなら「好きだよ」とか、こちらが焦ってしまうような愛の言葉を発するのに、今日はそれが1度もなかった。やっぱり何か、歯車がずれてきているような気がするのだ。雨が降る前に、湿気を帯びた匂いのする風が吹いてくる、そんな感覚に似ていた。
 セックスが済むとお茶を飲み、ユウはさっさと帰って行った。

 もう2度と、会わないような気がした。


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