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キャッチ・アンド・リリース
【大人 恋愛小説】

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14 半分こ-1

 クリスマスイブ。ユウは夜勤で会えない。彼氏と離れているタキと、彼氏のいないレイちゃんと三人で、クリスマスパーティをする事となった。

 料理はすっかりレイちゃんに任せっきりの私とタキは、二人が揃って興味のある歴史の話で盛り上がっていた。クリスマスに歴史の話をしている女二人っていうのもどうだか――。
 出来上がった料理はマカロニグラタン、サラダ。そしてお店で買ったローストチキンとシャンパンで乾杯。レイちゃんらしく、グラタンのマカロニは「クリスマスに因んだ形のマカロニなんだ」と女の子らしいこだわりがあった。「私の嫁に来い」、そう言っておいた。

 「レイちゃんは国家試験が終わったら、静岡に引っ越し?」
 レイちゃんは静岡の大学病院の研究室に就職が決まっている。
 「うん、そうなると思う。荷物まとめたりするの、面倒だなあ」
 レイちゃんの部屋を見渡す。綺麗に片づけられた部屋。取捨選択するべくもなく、箱にポイポイ入れて行けば引っ越し準備が出来そうな部屋だ。本当に、いつ来ても片付いてる。
 タキがチキンを骨から剥がしながら言う。
 「私の部屋なんてごみ貯めだから、引っ越しなんてなったら、荷物まとめる前にゴミ捨てないと」
 「同じく」
 悲しくも同意してしまう。

 「タキは実家から通うの?」
 タキの就職先と私の就職先は近所だ。就職してもなんだかんだで関係を持ちそうな気がするなぁと、ふと思った。
 「彼氏がこっちに来るような事も言ってたし、とりあえず一人暮らししようかと思ってるんだよね。だからこそ引っ越しの事を考えると憂鬱だよ。ミキは?」
 「私も実家と職場の中間ぐらいで一人暮らししようかなって思ってる。まだ両親にも相談してないけどさ。引っ越すにしたってまとまったお金、必要だしね」

 当面の課題である「国家試験」を通り越して、引っ越しの話になっているのは、現実逃避の為だ。合格率6割と言われる国家試験の事を、何もクリスマスのような日本中がハッピーオーラ全開の日に考えたくないのだ。
 もう引っ越す事が確定しているレイちゃんは、物件を探し始めているそうだ。
 「引っ越し先に誰も知り合いがいないのが結構不安なんだよね」
 レイちゃんがそんな事を口にした。
 「レイちゃんなら大丈夫でしょ。誰とでもうまくやっていける」
 タキに同意を促すと、大きく三回も頷いて言った。
 「ミキとは違うのだよ、ミキとは」
 タキは頭がいいからなのか、余計なひと言が付随することが多い。
 「ミキちゃんとタキちゃんは職場が近いからいいなぁ。しょっちゅう会えそうだよね」
 「まぁ会いたくなるかどうかは別として、な」
 先ほどのお返しにと、一発。

 「ミキは、実家と職場の中間に引っ越して、彼氏ともう一人の誰かの中間からは引っ越さないの?」
 タキの攻撃、もとい口撃は半端ない。
 先日サトルさんの家であった事について、タキには話していなかったので、掻い摘んで説明した。説明したところで、結論としては――中間にいる訳だが。
 「いいんでないの、そういうのも。どっちにも良い顔しておいて、どっちかでボロが出たらそっちは捨てればいい。ミキはどうせ『どっちかにしなきゃ』とか思ってるんでしょ?両方欲しいなら、両方に手を伸ばしておいたらいいじゃない」
 もっと辛辣なお言葉を頂戴するかと思っていたので、拍子抜けした。両方に手を伸ばす。不器用な私にそんな事が出来るだろうか。結局どちらにも手が届かずに脇の下辺りが攣ってしまうとか、そんな結末を思い浮かべる。

 「えー、でもそれって浮気じゃないの?」
 レイちゃんがとても常識的な反論をする。そうなの、浮気なの。実際浮気しちゃったの。 そして気持ちは今でも浮気しているの。心の綺麗なレイちゃんには、浮気なんて絶対タブーなのだ。どちらか一方を選ぶための手段としての浮気は別として、継続的に二人の男性と関係を持ち続けるなんて、一般的に考えても宜しいこととは思えない。
 「サトルさんは、身体の関係を持っても、未だに彼氏ではないし、彼女として私を受け入れてくれるようには思えない。これって、もしかしてセックスフレンドなのか?」
 レイちゃんが顔を赤くして伏せた。いや、あなたが赤くなる事はないから。
 「そうだね、セフレだ。ミキはセフレを獲得した」
 「RPGみたいな言い方をするんじゃない」

 すっかり泡の消えたシャンパンを一口飲み、「それでもいいんだ」と私は言った。
 「私はサトルさんのセフレでもいい。時々抱いて貰えて、その時だけでも私の事を大切に思ってもらえるなら、それでもいいや。その代わり、ユウともうまくやっていく。ユウには申し訳ないけど、サトルさんとの関係を続けるにはこれしかない」
 レイちゃんが「大変だね」と呟いた。
 レイちゃんは私の健全な恋愛を全力で応援してくれるつもりであったらしいが、どうも事は健全な方向には進みそうにないと諦めたようだ。話題を「今年の年末の過ごし方」に変えた。


 年末年始は、ユウの自宅で迎えた。初日の出を拝もうと言っていたのに二人とも夜遅くまで酒を飲み、結局朝8時ごろに目が覚めるという失態を犯した。しかも、よりにもよって年末に生理が来てしまったので、セックスが出来ない事にユウは腹を立てていた。
 「まだ生理なおらないの?」
 まるで生理を病気の様に言うユウのセリフが可愛い。
 確か去年はタキと2人で、横浜駅の大きな時計を見ながら新年を迎えたっけ。何が悲しくてそんな事をしたのか、今は思い出せない。


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