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狐と老婆とあかずきん
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物騒なキツネの魔物-2

 かすかに東の地平線が白みはじめた。

「俺、もー寝るわ。じゃな」

すっかり興ざめした調子で、一人が鱗の生えた手を振った。

「ああ、また面白いのあったら声かけてくれよ」

 もう一人も帰路につく。
 陽の光は魔族の天敵だ。
 人間どもが都合よく解釈したように、命を脅かす事はないが、くしゃみ、鼻水、体調不良、魔力の低下など、不愉快なことには変わりない。

 その点、テリーはかなり特異体質だ。
 一切陽の光に制約をうけない。
 その代わり、月に丸一日か二日ばかり、絶不調となる日が来るのだが…

「ーっくしょん!」

 盛大なくしゃみを一つして、テリーは肩をすくめた。
 どうやら今月も、うんざりする時間が来たらしい。
 山脈より高いプライドを持つテリーにとって、この弱りきった姿を仲間になど、絶っっっ対!!!見られたくない。

 さっさと寝ぐらに帰ろうとしたが、突如、酷い眩暈に襲われ、移動魔法を使う集中力は遮断された。
 視界が渦巻き、頭いっぱいに耳鳴りがわめき始める。空中でテリーはあからさまにふら付き始めた。

「ち…くしょ…」

 近年なかった程の酷い状態だ。
 とにかくどこかで身体を休め、この最悪な時間が去るのを待つしかない。


 森の中は濃い霧が立ち込め、湿気と寒さがますますテリーを不愉快にさせる。
 朦朧とした意識で行った移動魔法には殆ど効果がなかったようだったが、血の匂いがしないという事は、森の反対くらいには来たようだ。

 霧が薄らぎ、テリーは朽ちかけた小屋が目の前にあるのを知った。
 贅沢は言っていられず、扉に手をかける。
 埃とカビの匂いが充満する室内に生気はなかった。
 ゆがむ視界の中、よろよろと腐った床板を踏む足は鉛のように重い。
 部屋の隅には、虫の食った古いカバーをかけたベッドが置いてあり、テリーはその上に倒れこんだ。
 体が布地に触れる前に、意識はもう落ちていた…


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