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それぞれの終末
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それぞれの終末-2

「みなさんは、今どうお過ごしですか?あと四十五分で地球は滅亡します。」
その残酷な通告を、香織は柔らかに言った。ニュースキャスターとして、市民を不安がらせるわけにはいかない。だから終始、笑みを浮かべていた。実際にはもう、ニュースと呼べるほどの情報はないのだから、これは只の世間話にすぎない。
「今、テレビの前の貴方の隣には、誰がいますか?貴方の隣にいる人物は、貴方の一番大切な人です。結局、破滅は防げませんでした。半年前に公にされた隕石の衝突は、今現実のものとなっています。空を見上げてみてください。肉眼で、それを確認できるはずです。誰もが不安です。私も例外ではありません。けれど、今傍にいる誰かが、貴方を一人にはさせないでしょう。」
ならば、私は。
香織は思う。
ならば、私はどうだろう。一人、放送を続けている私には、一片の救いも無いのだろうか?
夫とは数年前に別れ、仕事に全てを賭けてきた。それは間違いだったのだろうか。
私の隣には、誰もいない。死の間際ですら孤独。
香織はブラウン管の中で黙り込んでしまった。
「顔を上げろ。お前がそんなことでどうする。」
放送中だというのに、ディレクターは声を荒げた。
「さっきから励ましの電話が鳴り止まないんだ。『頑張れ』だとか、『君の言葉に感動している』とか『最後まで見届ける』とかね。」
「あぁ・・・。」
香織は言葉にならない声を発する。
「お前はテレビの前の人々を勇気付けてきた。今もそうだ。だけどな、俺には感じるぞ。テレビの前の多くの人々が、今お前をとても心配している。」
あぁ、そうなんだ。私は、
「お前は一人じゃない。」
私は一人じゃない。
そう思った途端、大粒の涙が溢れた。けれど香織はそれを隠そうとはしなかった。
私が選んだ道は、間違っていたのかもしれない。けれど寄せられたこの沢山の励ましの声を、一体誰が否定できるだろう?
――― 終末は近い。
それは変えようの無い事実。けれど私にとって悲嘆すべきことなんだろうか?だって私は、この幸福を何処にだって持っていける。
「みなさん、」
そして私は世界中の人々に想いを馳せた。
「みなさん、ありがとう。そして最後はどうか、幸せな思い出を。」


 あのキャスターの言葉通り、隕石は肉眼で見えるほど接近していた。
「あきら、私怖い。」
そう言って僕を抱く手に、彼女は力を込めた。それに答えるように僕は彼女を抱き返し、再び空を見遣る。大気圏を突破した際に発火したのか、隕石は赤く燃え上がっていた。
そのあまりの大きさに、まるで空全体が落ちてくるような感覚を覚える。空は赤い。
それは海の青色の反射を受けているにもかかわらず、悲しいまでに赤い。砂浜に腰を下ろして僕たちはただ、その時を待っている。
アレは断罪の石なのか。
人類が何世紀もかけて創り上げた文明は、ただの石ころによって滅亡する。
僕たち人間が犯してきたあらゆる罪を、アレは清算してくれるのだろうか。
「あきら・・・。」
僕を見つめる瞳がある。その瞳と、ここで、この砂浜で出会った。だから最後もここが良い、とその瞳が言った。彼女はその出会いを『運命』と言った。ならば、こんな結末も運命なのかもしれない。
「あきら・・・。」
もう言葉も無く、ただ抱き合うだけ。腕にこもる力だけが強くなっていく。
「大丈夫だ、ずっと僕らは一緒だから。」
その凛とした発言に彼女は安堵した。その表情を見ながら、僕は言う。
「結婚しよう。」
――― 終末は近い。
けれど、僕らは終わらない。あんな石ころが僕らを引き裂くなんて許せない。認めない。
人類は滅びるだろう。
地球は無くなるだろう。
けれど無くならないものだって、きっとある。
そして赤い空の下、僕らはキスをした。
永遠の誓い。
地面が揺れ始め、落下音は止め処なく鳴り響く。
そんな中で、僕らは何かに抗うように、キスをしたんだ。


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