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私の死神様。
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私の死神様。-2

 それは昨日久しぶりに外に出た京子が、たまたま近所の古本屋で見つけたものだった。特に興味があったわけではないが、ちょっとした暇つぶしのつもりでそれに書いてある『死神召還法』というのを昨晩やってみたのだ。
「まさか、あれで?」
コクッと老人がうなずいた。
「ご、ごめんなさい。まさか本当に召還できるなんて思わなかったから。・・・もうかえってもいいわ。」
老人は困ったようにしかめっ面をした。
「それはできん。召還した者の魂を奪わなければ元の世界に帰ることはできんのじゃ。」
京子は血の気が一気に引く思いがした。しばし忘れていた死神に対する恐怖が脳裏によみがえる。今更になって昨晩自分がしたことを後悔し、わずかでも死に神などといういかがわしい存在に心を開こうとしたことを愚かしく思った。死にたくない、そう改めて自覚した。
「安心せい。おぬしの魂は取らん。その気の無い人間の魂を無理に奪うことはできんのでな。」
怯える京子に老人が言う。安堵した京子はその場にぺたりとすわり込んでしまった。
「でも、じゃあどうするの?」
京子が尋ねた。
「方法はある。なに、簡単なことじゃ。それにはおぬしが『生きたい』という意志を強く示せばよい。すなわちおぬしが愛する者と結ばれれば良いのじゃ。」
「へ!?つまりそれって・・・結婚?」
驚きあきれる京子をよそに老人がうなずく。
「ほかに方法は?」
「ない。」
「無理よ、急にそんな・・・大体彼氏もいないのに結婚なんて・・・」
「あせらなくてもよい。本当に愛する者と結ばれねば無意味なのじゃからの。では、わしはしばらくどこかに身を隠すとしよう。」
「え!・・・行っちゃうの?」
なんとなく寂しい気がした。この老人といて悪い気はしない、そう京子は思った。それは引きこもっていた京子にとって、非常に大きな存在だった。何よりこの単調な生活に変化が欲しい、そして何かを始めるきっかけとなる存在にそばにいて欲しい、そんな思いが京子に芽生えた。
「あの、別に身を隠す必要は無いんじゃない?あたし以外には見えないみたいだし。」
「・・・うむ、たしかに。」
「まあこうなったのもあたしのせいなんだし、しばらくここにいてもいいわよ。」
老人のいかつい顔がすこし照れたようにほころぶ。
「ふむ、じつはこちらの世界にくるのにかなり力を使ってしまっての、しばらく休ませてもらえるとありがたいのじゃが。」
「じゃあゆっくりしてって。」
そう言って京子は部屋を飛び出すと、大急ぎで台所からお茶と茶菓子をお盆にのせて戻ってきた。
「お口に合うかしら?」
テーブルの上にお茶を移しながら京子が言う。
「・・・人間にもてなされるのは初めてじゃ。」
それを聞いて微笑を浮かべる京子を見ると、老人も悪い気はしなかった。
「あの、死神さんってお名前なんていうの?」
「わしか?わしはアニス・ヒソップじゃ。」
「へえ、かわいい名前ね。あたしは西神。」
それを聞くと突然、アニスの表情が変わった。
「なんと、おぬしも死神なのか?」
「死神?・・・違うわよ、西神よ、に・し・が・み!西神京子があたしの名前なの!」
「おお、すまぬ。聞き間違えてしまったようじゃな。」
そう言って二人は笑いあった。それはまるで親しい友人同士の談笑のようであった。
 こうして二人は一緒に暮らすことになった。はじめはアニスも人間と暮らすことに多少抵抗はあったが、死神だと知りながらも自分を慕ってくれる京子に次第に親しみを感じていった。また京子もアニスといることでいままで毎日感じていた孤独に対する不安が和らぎ、少しずつ以前の明るさを取り戻していった。アニスと一緒ならきっともっと前向きになれる、いずれ別れなければならないことはわかっているが、その時がきたらきっと心からお礼が言える、いつしか京子はそんなことを思うようになっていた。
 しかしそんな京子の思いとは裏腹に、二人の別れは意外に早く、ある日突然やって来ることになるのだった。
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